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「リリィ何か変だよ」
私はロアに指摘されておかしさに気づく。雪の色が簡単に桃色へ変わるはずがない。淡い色彩を目で追えば光球が風に揺られており、ふらつきながら雪の中へ落ちた。何だろうと落下物を確認すれば小さな少女が倒れている。背丈は手のひらに収まるほどで薄桃色の四枚羽と黄金色のロングヘアが美しい。ロアはじっくりと眺めた後、鼻先をピクリと動かした。
「新種の虫かな」
「こんなに可愛い虫はいないわよ。たぶん妖精だわ」
森の民の歴史書で似たような絵が描かれているのを見たことがある。春を告げる薄桃色の妖精は暖かな季節を運ぶために現れるらしい。間近で会うのは今回が初めてだ。
妖精は落ちたはずみで気を失っているのか目を覚ます気配はない。少女を助けようとすくい上げれば手のひらが穏やかなぬくもりに満ちていく。
(私の知らない温かさだわ)
私は手のひらからまだ見ぬ世界に触れた気がして、妖精を優しく包み込んだ。
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