一人と一匹は楽園へ旅立つ

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 私は森の民の食事に慣れており違和感はないが、ロアには森の民の食事は味気ないようで「修行をしているみたい」だと不満を漏らす時がある。ロアにとって魚や野兎はご馳走に感じるらしく、今日は尾を振りながら魚の皿に顔を突っ込んでいる。  ロアは野生の群れで過ごした時期があるため森の民以外の暮らしを知っている。私と考え方の違いはそこから来るのだろう。  森の民は掟を守るのに集中するために外部との交流がない。私はロアとの感じ方の違いを目の当たりにし森の民の世界しか知らないのだと実感する。 「起きたみたいだよ」  食後、紅茶を舐めていたロアは少女が目覚めたことに気がついた。少女は私達のくつろぐテーブルの中央にやって来ると礼を言い「ハル」と名乗る。ハルは森に住み、神からの指示で春一番を吹かせ暖かな季節を運ぶ役割を担う。  ハルは雪の森を飛んでいたが寒さで羽が動かなくなり倒れたらしい。わずかな晴れ間と吹雪を繰り返す雪の森の環境は長距離の移動に向かないが、ハルには飛ばなければいけない理由がある様子だ。 「私は楽園に行って神様に会わなければならないのです」
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