一人と一匹は楽園へ旅立つ

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 私は思わずロアと顔を見合わせる。この世界には複数の神が存在し、神の降りる土地には繁栄が約束される。私達の住む“北の果て”と呼ばれる小さな島も楽園に住む神のおかげで栄えた。  神は百年前に北の果てに恩恵を与えることを止めている。豊かな森は雪の森へと変わり厳しい寒さに多くの動植物が絶えた。生き残った者達は島を出る方法が見つからないまま、寒さに耐えて暮らしている。  ハルによると神は二百年前から悩みを抱えており、打ち明けて貰えないまま百年前に突然雪が降り始めた。神は「悩んだが私達の役割を終わりにしようと思う。北の果ては自由になるのだ」と淡々と告げハルは木のうろの中に閉じ込められたそうだ。  ハルは数日前にようやく脱出に成功し再び楽園を目指したのだが、あまりの寒さにろくに飛べず私達の前に落ちてきたらしい。 「私達が役目を終えれば北の果てに住む者は寒さで滅んでしまいます。私は神様と会って春をもたらしてくださるよう、お願いをしに行く途中なのです」
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