一人と一匹は楽園へ旅立つ

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 道具さえあれば雪の森を生き抜ける自信が私達にはある。食料は道中に調達すればよく、野宿にはロアが黒毛狼の巣穴の跡を探すため問題はない。ハルは私達の旅の準備に楽園へ辿り着ける希望が持てたのか、日を追うごとに表情が明るい。  準備をしながらハルは少しずつ昔話をしてくれた。かつてこの森が緑と生命の息吹に溢れていた頃の話だ。森を豊かにしたのは森の麓に住む“里の民”だと彼女は言う。適度に整備された川に間伐が行われた森は陽光が溢れていた。  ハルの一番の楽しみは里で行われる神事だ。人々は新しい季節を祝い供物を捧げ宴を開いた。ハルは人々の笑顔を見ると心の奥が温かくなり幸福を感じると言う。木のうろに閉じ込められていた間も里の民の笑顔を支えにし、孤独を乗り越えた。
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