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手のひらから始まる世界
決して咲かないその花を“白妙の蕾”と呼ぶ。亡き人の心臓から芽を出し清浄な花弁を重ねる姿から蕾の中に魂の欠片を抱くと信じられている。
私は白妙の蕾に寄り添い目を凝らす。今日も仲間の欠片を探すうちに夢の淵から覚めていく。
私は両手を頬に当て体温を確かめてから起き上がるとランプをかざし、ひび割れた姿見の前に立つ。鏡の中には銀のショートヘアに碧色の瞳を持つ少女が立っている。昨日と変わらない自分の姿に夢見心地が一気に覚めていく。
日の出を待つ室内は青白い薄闇に満たされおぼろげで耳鳴りを誘う。薪ストーブに乗せたミルクパンの湯が沸騰するまでの間に、同居している黒毛狼のロアを起こす。ロアは「まだ眠いのに」と文句を言いながらも食卓に着く。
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