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第8話
「追ってきませんね。ケイさんが上手く止めてるみたいです」
タキタはルームミラーで後方を確認しながら言う。なんとかあのマシンから距離を取りつつあるのだ。
「あの人は大丈夫でしょうか」
「ケイさんなら最悪逃げるでしょうし死ぬ心配はしなくて良いですよ。問題はこっちに来ないかどうかだけですかね。それももうケイさん頼みでしかないですねぇ。私はアクセル全開で突っ走る以外に出来ることはないですし」
タキタはため息をつく。そして傍らのニールをチラリと見た。
「大丈夫ですか? ニール君」
ニールは顔が真っ青だった。今にも吐きそうなくらいだ。百数十キロで走るビーグルの揺れによる酔いではない。どう見ても恐怖で硬直していた。
「す、すみません」
「謝ることはないですよ。まぁ、無理もありません。あんな訳の分からないものに襲われれば」
「は、はい....」
ニールの声は重い。
「参りましたね。いや、本当に。あんなもの出てくるとは。弱りましたよ本当に....」
タキタの声も重かった。明らかに気分が沈んでいた。
「もっと簡単なものかと思ってましたけど....」
タキタは状況の悪化に付いて行けていなかったのだった。タキタのイメージではトラブルと言ってもどこぞの組織やらなにやらが襲ってくる程度のものでしかなかったのだ。ケイが戦い自分が逃げれば済む程度のトラブルしか想定していなかったのである。しかし、あのマシンは明らかにそういう想定を超えている。今まで見たことのない性能を持っている。タキタからはケイがマシンを相手にどう戦っているか分からない。しかし、自分の見込みが甘かったことは薄々感じ始めていた。
「いや、大丈夫。大丈夫ですよ。きっとケイさんならあいつをどうにかしていますよ。そうに決まっています。私達の仕事はこの後も上手くいくに決まってますよ!」
タキタは半ば現実逃避気味に言った。何とか状況が好転すると想像したいのだ。と、そんな時だった。タキタの携帯端末が鳴った。タキタは電話に出る。端末に触れて手を耳に当てた。通信用の術式が起動する。
『もしもしタキタ?』
「ケイさんですか。そっちはどうですか? 倒せそうですか?」
『分からない。いや、多分今は無理だ。こいつ化物だよ。傷一つ付けられないし....くっ!』
轟音が響く。電話の状況からケイはマシンの攻撃をいなしながら会話しているであろうことが伺われた。
「大丈夫ですか!?」
『大丈夫じゃないね。とにかくレートで言えばSSSクラスだよこいつは。これは本物の厄ネタだ。この依頼がなんなのかいよいよきな臭くなってきた』
「と、SSSですか....」
それは犯罪者などに付けられるクリミナルレートのことだ。SSSともなると歴史に名を残す危険存在ということになる。
『とにかく。私がこいつを引き止めるから...クソ!...タキタはニールを連れて空に飛んで』
「そんな! ケイさんはどうするんですか!」
『私は後から別のルートで追うよ。トゥキーナで合流で』
「そんな私を一人にしないでください! ケイさん、ケイさ....あ、切れました」
タキタは端末をしまった。顔はニールに負けないほど青くなっていた。いよいよ理解してしまったのだ。自分はとんでもない依頼を受けてしまったと。
「こ、これが特級ですか。ははは...」
タキタはひたすら車を飛ばし続ける。空港まではあと10分ほどだった。
「クソ!」
ケイは顔を歪ませて吐き捨てる。
『攻撃、攻撃、攻撃』
そんなケイにマシンは展開している刃を次々と振るった。ただ叩きつけるだけの動きで同じことを人間がやったならケイは難なくかわす。しかし、相手はこのマシンだ。挙動の全てが音速を超えるこのマシンが振るう刃はやはり音速を超えている。見た目だけで何tもあると分かる鉄塊がすさまじい速度で8本、代わる代わる振るわれるのだ。
「面倒なやつ!」
ケイは叫んでなんとかかわしながら反撃の機会をうかがう。動きはすさまじい。マシンが刃を振り回すたびに衝撃波で砂が吹き飛んでいる。地面に当たれば大きくえぐれ割れている。しかし、速いがケイからすればマシンの動きは依然として単調だ。ケイは潜り込むスキを探す。
『現状での障害の補足は一定以上の時間を要すると判断。ユニットの稼働率を拡大』
マシンがそう言うと刃の2つが弾けた。だが、弾け飛んで消滅したわけではなかった。バラバラに、小石ほどのサイズまで分解されたのだ。
『攻撃を継続』
そしてその小石はまるで意思が宿ったかのようにうねってケイに襲いかかった。
「本当に面倒なやつだね!!」
ケイは叫んだ。そしてそのまま一気に距離を空けた。マシンはすかさず追ってくるがケイは腕を後ろに広げてその片翼の黒い羽に触れた。
「そっちが手札出すってんならこっちも出し惜しみしないよ。リミット解除!」
ケイが叫ぶと黒い電流がその体から走った。
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