マスター

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分かっていた。 成長過程による肌の変化や知能まで 精巧にプログラミングされたロボットが 人口のほとんどを占める世界において 私は生み落とされたも同然の「人間」であったこと。 保身のため  廃工場からロボットのパーツを集めて身につけていたこと。 空腹に耐え ロボットを死ぬほど恨んでいたこと。 やがて体の成長が止まり  瀕死状態にあったところを  彼に助けられたこと。 彼はどこか作りが違う私の正体を 見破っていたこと。 見破って なおかつ ロボットとして迎え入れたこと。 事情を悟り 自分たちの正体を偽ったこと。 暴走化したロボットが  人間を「ロボット」として駆逐を命じたこと。 私は守られたこと。 ロボットが次々と壊れていく中で   私は数少ない人間として  生き延びていること。 この世界を人間である私に託すために  彼が故障時期を早めたこと。 マスター 私は  あなたに負けました。 この世界であなたほど  澄んだ感情を持ったロボットはいません。 マスター 私は  あなたに負けました。 あなたと出会わなければ  私は死んだ感情のまま  自分で自分を殺してしまったでしょう。 この記録書を書いたら  私は外へ出ようと思います。 かつての栄光を失った街 落ちぶれた世界 その一角に設けられた霊園で 息子さんと奥様の間に  あなたのパーツを埋めましょう。 あなたが願っていたのは 『ロボットと人間が共生する』  かつての世界。 どのくらい時間がかかるか分からない。 でも   やってみましょう。 希望を捨てることは  現段階では考えていません。 私が成し遂げられなければ  次の世代へ・・・ マスター 私はあなたを  永遠に  記憶します。
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