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『マスター 私は勝ったのでしょうか』
容姿端麗な彼女は 問いかける。
老人は答える。
「あぁ 勝ったとも 勝ったともさ」
シワに覆われた顔は うっすらと微笑むことしかできない。
「君は 私達に勝ったんだよ。」
老人は何度も 何度も確認するように言う。
『私は そうは思いません』
青い瞳を向けたまま 彼女は言う。
「ほう それはなぜだい?」
老人は座ったまま 問いかける。
『私は 本来 存在していなかったからです』
「そうか そうか 覚えていたんだね。」
老人は嬉しそうに ゆっくりと首を縦にふる。
『あの日は雨が降っていました』
「あぁ 確か そうだったねぇ」
『私は作動不能となり 路地裏でうずくまっていました』
「それは知らなかったねぇ」
『マスターは私を運んでくださいました』
「最初は 珍しいものが手に入ったと思ってね。でも、君の体は温かかった。」
『さぞかし重かったことでしょう』
「なぁに。私もその頃は若かったさ。」
老人は笑った。
『この部屋で 私は目覚めたのです』
「・・・あぁ・・・よく覚えているね・・・」
『マスターと 奥様と 2人のお子様と チワワがいました』
「君が目覚めるのを 待っていたんだ。」
『私が目を開けると お子様たちは後ろへひっくり返ってしまいました。』
「もうダメかもしれない・・・私がそう言ってしまったからね。」
『奥様は 私の手を優しく握ってくださいました』
「妻は、希望を捨てなかったんだ・・・」
一つ一つ思い出していくように 老人は語る。
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