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有能な霊能
こういうのは苦手だ。抹香臭い煙が涙腺を刺激する。だいたい俺は抹茶だのジャスミンだのフレーバーと相性がよろしくない。あとで事務所を片すのが大変だぞ。
ド派手なクシャミが厳かな雰囲気を台無しにした。ピタリと読経が停まる。
早埜亜里沙は意外な事に矢島勉の元カノだった。そして見えざる存在に対する感受性が人並でない。
「整いました」
グレーのそっけないシャツに漆黒のタイトミニ。引き締まった素足は余分な脂肪を削ぎ落して色気の欠片もない。
「何処を見てるの?」
さっそく叱られた。抜け目ない女だ。そして定番の公開捜査が始まった。
集められた被疑者は俺すなわち畠山と末山八十吉、矢島勉、彼岸夏美の三名だ。
亜里沙は仁王立ちして右手を腰に当て、左の人差し指を立てる。、
「この中に真犯人がいます」
一望された面々が嗚咽や吐息をあげる。
「まず、末山さん」
早埜はいきなり本命を指名した。
「ま、待ってくれ。私は確かに矢島君の元カノを寝取った。しかし、これも高菜を想っての事だ」
「確かに娘さんの恋人は浮気をしていた。その一人を潰す事で不倫を阻止できる。しかし、貴方は結婚している」
「あ、あいつだって両手で数えきれない男がいる。私はリセットしたかったんだ。高菜も妹が出来て嬉しいだろう」
八十吉は身勝手な理由を並べ立てた。
「末山に娘を殺す理由は無いってか」、と俺。
「次に夏美さん?」
びくっと怯えた視線が亜里沙に向く。
「だ、だってあたあたあた、あたしは未婚よ。いきなり高校生の娘がポッと出来たって…ねぇ?」
八十吉に救いを求める。
「妻に高菜の親権を渡せと言われていた。私はすぐに返事はできない、と断ったんだ。大切な娘を右から左に融通できないだろう」
だから、殺すなんて滅相も無いというのだ。
「ふぅん」
亜里沙は興味なさそうに聞き流す。
「で、矢島さん?」
「俺は本当に何も知らされてないんだ。あの日だって高菜の方からLINEを送って来た」
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