1000ヘルツの恐怖

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 二度目は火を使って温度で液状金属の構造を狂わせようとしたが耐火性があるので、まったく効果がない。次に酸を使ったが、黒い耐酸性のアクリル樹脂で加工してあるので、これも効果なし。  万策尽きたと思われたが、景子は超音波を使って破壊することを思いついた。  「あっ! そうだ! あいつ蝙蝠みたいに超音波を使うんだよ!」  「なんでそう思うんですか?」と、ゴンタロウは怪訝そうだ。  「だって、めずらしく、わたしはあそこにいて蚊に噛まれなかったもん!」  「なるほど、そういえば、わずかながら超音波を発信していました。蚊は蝙蝠の餌なので、1000ヘルツの音波に反応すると出てこなくなるんです。おそらく音波を発して、集音マイクで跳ね返った音を拾うことでターゲットを捉えているんでしょう」  「なら音で破壊すればいいじゃんか、その頭の機械を改造して強力な超音波で敵をダメにしなさい! きっと液状だから音が伝達しやすいはずよ」  「えっと、だれに改造してもらうんですか?」  「セルフサービス! そんなの、あんた自身じゃないとできないでしょうが!」  「し、しかし、それだと相手の耳を潰して、こちらの動きを悟られないようにするのが関の山かと」  「相手が迷ってる間にマイクロ波で壊せるはず。本はわたしが盗んで体育館の裏に持っていくから、料理をお願いね!」  「ダメです、危険です!」  「人知れず始末するにはこれしかないの、大丈夫よ、ページを開かないと作動しないんだから」  そして四度目で、やっと退治できた。   景子の予想通り、わずかな音に反応できるように液状ロボットは小型のマイクだらけだった。弱点がわかれば所詮はミクロ単位の精密機械、意外に脆く、マイクロ波を使うまでもなく機能が停止した。  超音波での戦いなので、人間にはいくら音が大きくても聞こえない。三田を含めた全校生徒にバトルが知られることはなかった。  強敵との戦いは決着した。  破壊された液状ロボットは自衛隊の特殊工作に回収され、残りの本もすべて処分され、事件は隠蔽された。  だがあくまで極秘裏での活躍だ。  たとえ肉親でも評価されないこともある。  翌日、頭にたんこぶを作った景子は教室で三田に嘆いた。  「昨日、あんまり痛くて、わたしは叫んだ!」  「なになになに、うわぁ~! でっかいこぶ! どうしたの?」  とうとう、アルバイトがバレて、「ま~た自衛隊を手伝って危ないことをしておったのか! もうアルバイトは禁止じゃ!」と、本気で祖父を怒らせたのだ。  だが、高額アルバイトは高校生にとって、とても魅力的だ。  なんせ高校生は金がいる。  化粧品に洋服、カラオケにグルメにスイーツ三昧、好きなアイドルのグッズの収集に旅行、イベント、コンサートに巨大遊園地などのアトラクション。それに空手部の練習、誘惑がてんこ盛りで整理券を配りたいくらいだ。  「だめだ! ごめんなさい! おじいちゃん! ティーンエイジは二度来ないの!」  まだまだ、景子の危険なバイトは続く。  了
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