1000ヘルツの恐怖

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1000ヘルツの恐怖

 死ぬ直前、自主出版して、知人に配ったらしい。小説家志望のまま世を去った室口貞夫(むろぐちさだお)がどうして、あんな本を世に遺したのか? そもそも、どのような経過であんな精巧な《罠》を手に入れたのか? 本人が他界した今では謎だが、この問題を解決した自衛隊では、《自分の作品を死んでから読むなど許せない!》と、世に対してテロを企てた。  と、いうことになっている。   「で、マジもんの呪いだったわけ、ページ開くとバケモノが出てくんの!」  と、景子は部活の帰りに三田から呼び出されて、この《都市伝説》を教えられた。  「なんで、よりにもよってここに呼び出すかね」  景子はやぶ蚊の餌食にされることが多く、校庭の南端にある花壇が大の苦手だった。  「まあまあ聞いてよ、わたしの知人の知人の遠い親せきにあたる人がもうちょっとで死んじゃうところだったのよ」  「で、なにが出たって?」  「真黒なモジャモジャが襲ってきたって」  「そんなんじゃ、わけわからん」  「へへへ、そう思って借りてきた」  「でええええ! 借りんな、そんなもん」  見れば表紙の汚れたいかにも禍々しい本ではないか。  題名は『そして私は叫んだ』だ。  「じゃあ、ページを開くよ」  「しょーもな、なーんも起きるわけないじゃん」  なにが始まるかと思いきや、三田がページを開くと、本の中身は白紙で、文字なんか印刷されておらず、代わりにドロリとした黒いゲル状のモノが地面に落ちた。  「げげげ! なんじゃこれ!」と、目を丸くした三田を景子は笑った。  「そーら、たちの悪いいたずらだったじゃんか」  ウソだった。本当はイタズラどころでない。  三田がページを開くのは五度目だ。  景子は時間を巻き戻す超能力者だが、一度目は三田が襲われたので時間を巻き戻し、戦闘用アンドロイド、ゴンタロウを呼んだが、強敵で三度も負けている。  印刷された文字に擬態させた液体金属のロボットが仕込んであったのだ。  はじめゴンタロウは腕力では効果がないと考え、マイクロ波を発して内部から焼こうとしたが、相手の動きは素早く、瞬く間に部品の隙間から侵入して稼働モーターや電子頭脳を破壊した。  このロボットは暗殺に機能を特化しており、人間の鼻や口から潜入すると、肺をつぶして呼吸困難で殺してしまう。  室口は自主出版した本のいくつかに、このようなトラップを仕掛けて、不特定多数を殺すようにインプットしていたのだ。      
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