St.Evilnight Saga ~永遠を誓うリング~

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St.Evilnight Saga ~永遠を誓うリング~

「下僕、どう? 綺麗でしょ?」  帰宅早々、キッチンの椅子に座って開口一番に高杜さんが見せてきたのは、左手薬指にはめられた一つの指輪だった。 「……どうしたんです? これ」  大粒ダイヤの指輪だ。相当な値のものだろう。こんな高価なもの、一体どうしたというのか。 「貰ったのよ」 「貰った。一体誰に?」  女性にダイヤの指輪を贈るなんて、思い当たる理由は一つしかない。  一体どこの誰だ? この悪女にプロポーズした命知らずの男は。 「露天商のおじさん」 「……それ、知り合いですか?」 「今日初めて見る顔ね」  そんな相手から、ダイヤの指輪を平然と受け取るこの人もこの人だ。一体、どういう神経をしているんだ!  また面倒事を拵(こしら)えてきたんじゃなかろうかと思ったら、怒りが沸々と湧き上がる。 「その指輪を貰った経緯をお伺いしても?」  そうだ。とりあえず落ち着いて状況を聞こう。絶対に、俺が納得できるような経緯ではないと思うが。 「歩いてたら、声をかけられたのよ。「そこの別嬪さん。悪い虫が寄ってきて困っていそうだから、この指輪を左手薬指にはめておくといい。あぁ、お代はいらねぇよ。美人さんへのサービスだ」って言ってたから、綺麗だったし遠慮なく貰ったわ」  遠慮してくれ。怪しすぎるだろう!!  しかも左手薬指って指定までして来ているところからして、絶対にそれは婚約指輪のつもりで渡したとしか思えない。  まさか、左手薬指にはめる指輪の意味を知らないのか?  魔物とはいえ、一応女性の括りには入るだろう? 悪女は別次元とか言わないよな? 「……高杜さん。左手薬指に指輪をはめる意味、ご存知ですか?」 「結婚指輪でしょ? 男避けではめるなら、妥当よね」  男避けに露天商が、こんな高価なダイヤの指輪を無料(タダ)でくれたと本気で思っているのだろうか。  変な所で無防備というか、馬鹿……いや、純粋な一面があるんだなと思う。  それにしても、少しデザインが独特な指輪だ。2匹の竜が互いの尻尾を噛んだ姿をしているなんて。 「そろそろ夕食の時間だと思うんだけど、下僕、ご飯の準備は?」 「もうじき焼き上がりますよ。今日はグラタンを作って……」  オーブンに目を向けると、中でボンッと何かが弾ける音がした。  ―― 弾けるようなものは、入れてないはずだが……  心配になってオーブンを開け中を確認すると、皿が割れてグラタンが四方八方へ飛び散っていた。 「何故……?」  いつも通りだったはずだ。こんな風に破裂するようなものは、何も。 「ご飯、いつ食べられるの?」  高杜さんが空腹の肉食獣にも似た双眸を俺に向けた。  ダメだ。このままだと今夜の彼女のディナーは俺の生き血ということに……。 「ちょっと、できあいのもの買って来ますから待ってて下さい」  火を消して、買い出しに行こうとドアへ足を向ける。  彼女は深い溜息をついて、椅子から立ち上がった。 「今から行ったんじゃ、食べられるのはもっと遅くになるじゃない。いいわ。今日は外食にしましょ」  「ほら、出かけるわよ」と高杜さんがドアから出て行く。  ありがたい提案ではあるので、俺も素直に従った。
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