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翌日。
「神父様、風邪でもお召しに?」
心配した表情を浮かべる美しき若い女性―― 高杜さんが帰り際、声をかけてくれた。
「朝から、少し喉が痛くて……」
まさか昨日、仮病を使ってロクデナシ生活に戻りたいなどと考えながら、礼拝の最中に祈っていたとは言えない。
「それは風邪の引き始めですね。生姜湯を飲んで、体を温めて、ゆっくりお休みになって下さい。早く治りますように」
「ありがとうございます。優しい貴女に、神のご加護がありますように」
高杜さんは笑みを浮かべ、軽く会釈をして教会を去る。
誰もいなくなった教会の中を、ゆっくりと過ぎて行く和やかな時間……。
こんな一時にこそ、誰もが幸せを感じ、今日を精一杯生きるべきなのだ。
一人の時間が作りだす感傷的な空間を眺めていたら、身体が言う事を利かずにふらつきだす。
今日は朝から、どうにも体が怠い。
教えてもらった通り、生姜湯でも飲んで早々に休もう。
そして翌日、天罰が下ったかのように高熱が出た。
仕事はしなくて済むが、これでは自由がない。
主は、不埒なことを祈った使徒たる俺を見逃しはせず、しっかりと罰したようだった。
俺を監視しているのは、教団だけではなかったのか……。
Fin.
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