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第1話 プロローグ 『転生』
吾輩は最強破壊神、シヴァルツ・シヴァイスである。
もうすぐ勇者パーティーがここ、『破壊神の眠る洞窟』にやってくる……。
なんてダサいネーミングセンスの場所なんだ……と思うが、吾輩が封印されし洞窟だから、そう呼ばれているらしい。
今の吾輩は最大マックスの時よりも半減したチカラしかない……。
さらに、吾輩を取り巻いている広範囲の誘導催眠結界の中で、吾輩がその半減している力でさえすべて発動させることは不可能であろうな……。
吾輩の力が半減したのは、パワーを分け与えていた大魔王・ラスマーキンが滅ぼされたのだろう。
吾輩の破壊エネルギーを貸し与えてなお、大魔王は倒された……。おそらく、龍神帝・メギドラーマと妖精女王・ターニャロッテ・オヴェロニャンもその力を勇者に協力しているのであろう。
まあ、この洞窟全体に張られた広範囲の誘導睡眠結界に、龍神も精霊も協力したのだから、今回の大魔王との戦争でも勇者に協力することは、至極当然といえば当然だな。
卵を割れば中身が溢れ出るのと同じくらいに、至極当然のことだろうな。
もともと吾輩は最強の破壊神として恐れられていたため、先代勇者の時代に勇者・龍・精霊の三位一体の結界により封じられて眠りについていた。
それ以前は、代々の勇者が限定封印結界を使用し、100年の間、吾輩の動きを封じていた。
だがこの封印のスキルを勇者が使用することで、歴代の勇者の力は半減し、大魔王との決戦では常に勝敗がつくことはなく、何千年間も痛み分けとなっていたのだ。
だが先代勇者の際に使用されたのは、龍と精霊の力を借りた広域誘眠結界だったため、勇者はその力の8割以上を温存したまま大魔王と決戦した。
そのため、魔王軍は敗戦し、大魔王も力を失い、その再起を図るため地下世界に逃げ込んだ。そして100年の地上の平和が訪れた。
そして100年が過ぎた……。
大魔王は100年でその魔力を回復し、魔王軍を再起し、再び地上を魔族のものにせんと戦争を開始した。
その際、大魔王は最強破壊神の吾輩に信仰を捧げ、破壊エネルギーの加護を受けることで、今までより圧倒的な力を奮っていた。
だが、当代の勇者は今までの中でも最強であった。龍と精霊の加護で大魔王の力をさらに上回り、先代でさえ追い詰めるまでしかできなかった大魔王についにトドメを差したのだ。
そのおかげで、大魔王へ力を吸い取られて弱体化していた最強破壊神の吾輩は今、力が半減した状態なのだ。もちろん時をかければ回復する……が、当代の勇者は吾輩のもとへ向かってきている。
吾輩を滅ぼさんという目的のためというのは誰にでもわかることだ。
そう、勇者が最初に訪れた村『ハジマリノ村』の、「ここはハジマリノ村です。」とだけしか答えないあの愚かな村人にだってわかることだ。
結界の中で最大の力を発揮できない状況下かつ吾輩の力が半減している……。今が吾輩を滅ぼす好機と考えたのであろう……。
大魔王との戦いによる消耗も回復している様子だ……。
当代の勇者は恐ろしく強く、賢いな。いや、そのパーティーに切れ者がいるのか……。
まあよい。吾輩は吾輩の破壊の本能に従うまでのこと……。
ここに向かってくるメンバーは、全部で4人か……。
龍神帝と妖精女王は洞窟の外から、封印結界をさらに強固に張る算段であろう……。
そして、ついに勇者一行が吾輩の目の前にやってきた……。
吾輩は彼に問いかける……。吾輩の前にやってきた者にはいつもこう問いかける……。
「吾輩の名は最強破壊神、シヴァルツ・シヴァイス。名前しか思い出せない……。自分が善なのか悪なのかそれすらもわからない。」
「お前は吾輩を 滅ぼすために やってきたのか?」
「そうだ。私は勇者・ブレイブレスト・マンカインド! 最強の破壊神よ! 私はお前に個人的恨みはない!
だが、人類の平和のため、お前を滅ぼしにやってきた! いざ! 尋常に勝負をっ!!」
この勇者は本当に、清々しいまでの勇者っぷりだな……。元気印、素直でおそらく無茶振り系男子だ。だけどなぜか憎めないヤツだな。
その後ろには大賢者か。一見地味なメガネ男子。このパーティーで一番の切れ者。ちょっとオタクっぽい懸念あり。一途に影で支えるタイプ。
同じく後方に、聖女か。彼女の家柄は非常によろしくセレブ系女子だろう。大人ぶってはいるが、なんか、実はうぶなところもある……そんなタイプだろう。
あと前衛に出てきた女は、剣聖だろうな。武に全てを捧げたって感じのクール系女子か。だが、実は寂しがり屋な彼女はいつも誰かと一緒にいる事が多い。
吾輩の観察眼は破壊のために事前に情報を確実にするため、極限まで鋭いのだ。その性格、魔法、スキル、生い立ちまで見切ることができる……。
そしてその観察眼で予測した結果、吾輩はおそらく勝てないだろうな……。だが、破壊の本能を解き放つことしか吾輩に選択肢はない……いつも……。
戦いは3日3晩に及んだ……。だが、徐々に吾輩の体力、エネルギーも消耗していき……。
そして、ついに彼らは吾輩を倒したのだ。勇者が大魔王と破壊神を両方討滅し、人類の勝利となった……魔族は滅ぼされ、人類にとっての恒久の平和が訪れるのであろう。
そして、吾輩の破壊本能とともに吾輩の存在自体も消えていく……。
これが……死なのか……。奇妙な安らぎさえ覚える。
「数千年の間、吾輩はお前を待っていたのかもしれない……。勇者ブレイブレスト・マンカインドよ。」と、吾輩が最後の言葉をかける。
「さらばだ……友よ……強敵と書いて友……お前は吾輩の初めての友であろう……。」
「おお!生まれ変わったら人類の味方になれよ!友よ!破壊神・シヴァルツ・シヴァイス!おまえは間違いなく強敵だったよ……。」
そう言った勇者の声がかすかに、吾輩に届いたところで、吾輩の意識は完全にこの世界から消えた……。
ん……?
吾輩の意識が……ある!?
なんだか、光を感じる……。これは、どういうことだ?
吾輩は滅せられたはず、その生命の核、魂魄まで消え去ったのではなかったか……。
時間の感覚はまったくない。あれから一瞬の後なのか、それとも幾億の年月が経ったのかさえわからない。
なぜだか吾輩はだんだんと意識が蘇ってきたのだった……。
「う……う~~~ん。」
うっすら目を開けながら、起きた異世界最強破壊神・シヴァルツ・シヴァイス。
元の世界とまったく違う世界が、目の前に広がっていた。超高層の建物群……そして、目の前を横切っていく人間どもの群れの数……多すぎ……。
どうやら、異世界に転生してしまったというやつらしい……。
ふと目を上げると、なんだか犬の格好をした金属の像が台座の上にあった。周りには見たこともない種類の鳥が、何やらいっぱい地面をくちばしでコツコツと叩いていた。
周りで吾輩のことをじろじろ見てくるやつらもいたが、何やら変な機械を取り出して、我輩に向かって光魔法っぽいものを放ってくる。
が、何にも吾輩に影響はない。攻撃魔法にさえなっていない……。なんなんだ、いったい。
しばらく、やつらの会話を聞いていたが、以前の人類が話していた言語とはまったく違っていた。
が、そこは吾輩の破壊神たる能力、すべてを看過する能力で、しばらく聞いていたところで完璧にマスターしてやった。
ふん、この程度、造作も無いこと。どうやらジャポン語という言語らしい。
吾輩の力は勇者に滅ぼされたため、今はかなり弱っているらしいな……。だが、この辺りの人間どもをすべて滅することくらいはできようぞ……。
だが、情報を知るものは世界を制す……。
賢い吾輩は、とりあえず、辺りを観察をすることにしたのであった……。
~続く~
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