一章 賢者と最初の事件

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 「またドラゴンが出たぞーー!!……また死体が出たぞぉぉーー。」  すぐ近所で、若い男の叫びがしている。  驚いた僕は、勢いよくベッドから転げ落ちた。  ぶつけた頭を擦りながら、ゆっくりと立ち上がり、辺りの様子を確認する。  どうやら、まだ夜が明けきる前のようだった。  空が白みだし、窓から徐々に光が射し込んで、部屋の中がよく見えるようになる。  それに比例して、外も騒々しい。  僕は寝間着のまま、自宅の玄関を飛び出して、大勢の群衆がいる大通りの方へと寄っていく。  集まった野次馬の間を通り抜けるにつれ、私の身体の中を、じわじわ不安が侵食してくる。  ようやく人ごみの中から解放され、開けた場所に出た。  「今度は、誰が殺されたんだ?」  「雑貨屋の倅らしいわよ。」  「ほら、あれを見ろ。」  と、周囲では囁き合いながら会話する人達や、渦中の中心を指差す者がいる。  その指し示す方向には、雑貨屋があり、ーー  その壁には、大きな爪後の様な三本の線が残されていた。
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