一章 賢者と最初の事件

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 「あなたは、……もしや、アラン殿ですよね。」  「え、……?」  「賢者アルベン様のお弟子をしていたという。」  僕の予感が的中した。自分の身体が強ばるのを感じる。  「な、なんで、……そう思ったのですか?」  「十年前に、……私が新兵だった頃に、国境の詰所に勤めてました。その時に検問の担当をした際に、アルベン様にお世話になったおりに、お見かけしたのですが……。」  あ、……と、僕も思い出した。  「あの時の人ですか?」  「はい。……いや、あなたも随分とご立派に成られましたね。……以前は確か、まだ十歳にも満たない程の子でしたし。」  「……そんな立派じゃ、ありませんよ。」  「え、……あの、何か気に障りましたか?」  怪訝な表情をする隊長さんが、僕の視線の高さに合わせて聞き返してくる。  しかし、もう僕は彼女の方を見ることは出来ずに、顔を横に反らしてしまう。  ふと周囲の人達が僕らの様子を伺っていると、今更ながら気がついた。  あれだけ大騒ぎしていたのだから、当たり前だろう。  「じゃあ、失礼します!!」  僕は踵を返し、急いで野次馬の中へと向かう。  「アラン殿!?」と隊長さんが呼んでいる。だが、もう僕は彼女や周りの連中の声を聞きたくなかった。  「なぁ、アルベンって、……確か。」  「そうそう、……あちこちの街で問題を解決していたという、とても有名な凄い賢者様よね。」  「じゃあ、あいつも……。」  誰かが言っているが聞こえない、……僕には何も聞こえない!!  両耳を手で塞ぎながら、無我夢中で走り続ける。  早く自宅に戻って、荷造りをして、この街を出ていこう。  何処か違う場所へ向かおう。  と頭の中で、そんな思考が何度も過っていた。  あぁ、……どうして僕は、大変な運命を背負ってしまったのだろう。
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