36人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたは、……もしや、アラン殿ですよね。」
「え、……?」
「賢者アルベン様のお弟子をしていたという。」
僕の予感が的中した。自分の身体が強ばるのを感じる。
「な、なんで、……そう思ったのですか?」
「十年前に、……私が新兵だった頃に、国境の詰所に勤めてました。その時に検問の担当をした際に、アルベン様にお世話になったおりに、お見かけしたのですが……。」
あ、……と、僕も思い出した。
「あの時の人ですか?」
「はい。……いや、あなたも随分とご立派に成られましたね。……以前は確か、まだ十歳にも満たない程の子でしたし。」
「……そんな立派じゃ、ありませんよ。」
「え、……あの、何か気に障りましたか?」
怪訝な表情をする隊長さんが、僕の視線の高さに合わせて聞き返してくる。
しかし、もう僕は彼女の方を見ることは出来ずに、顔を横に反らしてしまう。
ふと周囲の人達が僕らの様子を伺っていると、今更ながら気がついた。
あれだけ大騒ぎしていたのだから、当たり前だろう。
「じゃあ、失礼します!!」
僕は踵を返し、急いで野次馬の中へと向かう。
「アラン殿!?」と隊長さんが呼んでいる。だが、もう僕は彼女や周りの連中の声を聞きたくなかった。
「なぁ、アルベンって、……確か。」
「そうそう、……あちこちの街で問題を解決していたという、とても有名な凄い賢者様よね。」
「じゃあ、あいつも……。」
誰かが言っているが聞こえない、……僕には何も聞こえない!!
両耳を手で塞ぎながら、無我夢中で走り続ける。
早く自宅に戻って、荷造りをして、この街を出ていこう。
何処か違う場所へ向かおう。
と頭の中で、そんな思考が何度も過っていた。
あぁ、……どうして僕は、大変な運命を背負ってしまったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!