03:見られて淫れて

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「つーか、さっきのおまえ、マジでいやらしかったなぁ。最高」  すっかり重くなってしまった空気を消したくて、あえて明るく弾んだ声で褒め、望月の顔を見つめる。 「ほんと? よかったぁ」  その言葉に安堵したのか、望月は肩で息を吐いた。間違いなくそれは本当に思ったことだ。本当だからこそ、今でもデニムの中でまだ昂ぶっている自身が望月に触れないように腰を引いているし、このまま欲望に任せて押し倒してしまいたくなる衝動をなんとか抑え込んでいる。どんなに望月が妖艶だったとしても、自分は賢者でいなくてはいけない。まだ始まったばかりの二人の関係を終わらせたくないなら、耐えなくてはいけないのだ。  結局、そのあと望月がシャワーを浴びている間に、邪念を振り払い、昂ぶりをどうにか沈静化させ、持参してきたノートパソコンで動画の編集を始めた。その動画は予想通り、刺激の強いものだったが、できる限り客観的に編集者として動画を扱うように心がけた。 「おまたせ」  テーブルに運ばれたのは、ほかほかの白いご飯が盛られた茶碗と豆腐の味噌汁のお椀、そして生姜焼きに刻んだキャベツとポテトサラダをつけあわせたプレートだった。  黙々と作業をしている間に、望月は大橋のために夕食を作ってくれていた。 「これ、おまえが作ったのか?」 「うん。料理は好きなんだ。お口に合うか、わからないけど」  さっそく一口食べてみると、その味は口に合うどころか、定食屋で食べるよりもずっと美味しかった。男の手料理とは思えないくらいの完成度だ。まさか、望月に胃袋まで掴まれてしまうとは思わなかった。 「おまえ、すごいな」  素直に褒めると、望月は照れくさそうに首を振る。 「いつも自炊しても一人で食べるんだけど、こうして誰かと一緒に食べるっていいね」  誰かと、という言葉に、引っ掛かりを覚える。そうだ、別に望月は誰でもいいんだ。いや、そりゃそうだろう。と慌てて否定する。  あんな姿を知っていても、自分は望月にとってただの会社の同期だ。たとえ秘密を共有していても、他の同期よりは近い位置にいるかもしれないが、それでも望月の特別ではない。それは忘れてはいけない。  編集を終わらせ、望月が投稿するところまで付き合うと、帰りは終電の時間になってしまった。やり遂げた高揚感で、帰りの気分は良かったが、これからは望月の家でこうしてパソコンを持ち込んで編集させてもらおうと決めた。 (あの動画を、一人で見ていたら、何もしないでいられる自信がない)  そして次の日の午後、望月から、投稿した動画が再びデイリーランキングで一位になったとの連絡を電話で受けた。さらに月曜日、火曜日と日にちが過ぎても、ソウの動画は一位に君臨し続けた。  それからというもの、毎週土曜日は、望月の家で撮影するというのが定例になった。もとから週末はだいたい一人で過ごしているという望月は、さほど影響がないようだったが、大橋は週末になると友人と出かけており、その誘いを断らなければいけなくなった。しかし、それはまったく苦ではない。その翌日にあたる日曜日もなるべく空けるようにして、投稿されたソウの動画についたコメントをチェックしたり、動画編集の勉強をしたり、という時間に割いた。とにかく今、最優先にやりたいことは、望月の動画に関係することが占めていた。  撮影の内容は特に大きく変えなかった。なぜなら、あの動画以来、望月が大橋に許しを得る前に達してしまうことが、動画の目玉になっていて「今週は耐えられるのか」といった期待から特定のファンがつくようになった。望月本人は「自分は早漏じゃないと思ってた」と落胆しているが、その、早く達してしまうところが閲覧者の心をくすぐっているらしい。もちろん、望月が慣れてしまわないように、大橋もいろんな角度から望月が興奮するような言葉や行為を勉強した。  つい先週の撮影は、編集で隠すから、という前置きで、望月に四つん這いになって後ろの穴を自分に見せながら自慰行為をするように指示をしたが、あまりの恥ずかしさからか、あっけなく達してしまい、その動画のコメントでは「ソウの最速記録更新動画」と話題になったほどだ。そして、気づけば、ソウのお気に入りは百人を超えて、三百に迫る勢いになっていた。
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