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「本当さ、おまえって外見だけなら、イケメンの部類に入ってるくせに、中身が残念っていうか」
「あのなぁ、少しはオブラートに包んでくれよ」
しかし、小島の言うとおり、この外見は、見掛け倒しで、実際に付き合うと、恋人を大切にしないダメ男のレッテルを貼られてしまうのだ。
「逆に、恋人に対して、あいつは俺だけのものだ、みたいに思うこともないわけ?」
「ない……」
普段から友達との付き合いのほうが楽しく、モテたいと思う割には、実際の恋愛にあまり興味がない。思えば、誰かを自分から好きになったこともなかった気がする。
「見てみたいよ、おまえが嫉妬心むき出しにして、好きになる相手をさ」
「ははは。俺もそんな恋愛してみたいよ」
とはいえ、そんな機会は当分訪れない気がしている。望月の動画に協力すると決めてから、この週末はそのための準備に費やし、それは自分なりにとても充実していた。おかげで、仕事して、帰って飯食って風呂入って寝る、という平凡な日々が一気に色づきそうな予感がする。私生活が充実するってすばらしいなと思う。
「あと、無駄に巨根なのも残念だな」
「それ彼女いないこととは、関係ないだろ?」
これだから学生時代からの長い付き合いの悪友は困る。しかも、自分が巨根なのは、同期会で小島にバラされて、今では社内で周知の事実だ。
「あれ、望月ちゃんじゃね?」
視線を遠くに向けた小島に言われ、喫煙室を区切っているガラスの壁に目を向けると、きょろきょろと誰かを探しているような様子の望月がいた。見慣れているはずのスーツ姿が妙に新鮮に感じられる。今の自分はあのスーツの下の裸まで知っているなんて、なんだかおかしな気分だ。
そのままガラスに近づいた小島が、コンコンと叩くと望月がこちらを向いた。同時に、大橋の顔を見つけて、あっ、と驚いた顔をした。
「おまえを探してたみたいだぜ」
「マジ? じゃ行くわ」
半信半疑ながらも、大橋は持っていたタバコをねじ消す。
「ほとほどにしとけよ。おまえの天然たらしは、男女問わずソノ気にさせるからな」
小島に、ねーよ、と告げて外に出る。どうやら本当に望月の目当ては大橋らしく、律儀に喫煙室の前で、申し訳なさそうに待っていた。
「え、もしかして、俺探してた?」
「大橋くん、どうしようどうしよう。こんなこと、初めてで」
慌てた様子の望月は、慌てて飛び出してきたのだろうか。腕カバーをつけた姿で、指には紙をめくりやすくするリング型の指サックもついたままだ。そして、今は、きょろきょろと周囲を確認している。どうやらおおっぴらに話せる内容じゃなさそうだ。
「自販機んとこ、行こうか。俺も缶コーヒー買いたいし」
望月は、首を縦にぶんぶんと振って頷き、大橋について歩き出した。
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