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「あれ?」
「……いらっしゃい」
約束の時間通りに、望月の家に着いた大橋を出迎えてくれたのは、妙にさっぱりとした望月だった。部屋着は以前と変わらないのに、なぜだろう。
「あ、髪、切った?」
「う、うん。初めて、美容院に行ってみたんだ」
確かに以前よりも軽くなっている前髪に触る望月は照れくさそうだ。あれから平日に会社で見かけた望月は以前と変わらず、重めの前髪だったので、週末になってから美容院に行ったのだろう。そうなると、これは撮影のため、ということになる。
「似合ってるよ。外見を気にするのはいいことだ。人気投稿者になるかもしれないんだし」
「おおげさだよ。そもそもあの一位だって、もう次の日には圏外だったし」
「たとえ瞬間最大風速だったとしても、ソウの認知度は上がったんだから手応えとしては十分だよ」
「そうだといいけど」
望月と話しながら部屋にあがらせてもらう。室内は前回と同様、綺麗に片付けられていて、ベッドの脇には大きめの丸型のクッションが置いてあった。あの上で、望月は今日も自慰行為をするのだと思うと、落ち着かない。
以前は、「ちょうどこれから撮影するところだったから、見てて」と言って服を脱ぎ始めたと思ったらいきなり自慰行為が始まったので、身構える余裕すら与えられなかったのだ。
「大橋くん、コーヒーはブラックだったよね」
「ああ、うん」
どうして自分の好みを知っているのだろう。もしかして、総務という職業柄、社員の好みは把握していたりするのか。いや、そんなはずはないな、と否定する。自分も営業という職業柄、客の好みを気にするけれど、どこかで知った自分の好みを望月が覚えていてくれたことが単純に嬉しい。
「あのさ、俺なりにこないだ投稿された望月の動画を分析してみたんだよね」
「えっ! あの動画見たの?」
望月の部屋はワンルームで部屋の一角に台所がある。そこでお湯を沸かそうとしていた望月は大橋の言葉に慌てて振り返った。
「そりゃ見るだろ。そんな驚くことか?」
「内容知ってるのに、見ないでよ」
「知ってても見るだろ、分析したいんだから」
それを望月が恥ずかしがる意味がわからない。さすがに一巡目は、いろいろ思い出してしまい、素数を数えたり、仕事のことを思い出したり、となるべく下半身が反応しないようにしたけれど、慣れてしまえば、その後は客観的に何度も見ることができた。
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