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「……それで?」
望月は、大橋が動画を見たことについては不服のようだが、一応分析した結果は知りたいようだった。
「うん。今までの動画よりも今回の動画の閲覧数が増えた理由はわかった気がする」
大橋の言葉に望月は目を見開く。続く言葉を期待している顔だ。
「今まで固定していたカメラを俺が動かしたことで、第三者がおまえにオナニーをさせて、それを見ている動画になったことだ」
「なるほど……」
「おまえ、黒丸って投稿者知ってるか?」
「名前は見たことあるかも……お気に入りの数が確か、四桁くらいの人だよね」
「そう。彼が投稿する動画は必ずランキング入りするほど評判がいい」
「その人がどうかしたの?」
「黒丸は典型的なタチで、相手を言葉巧みに行為へ持ち込む。最終的にセックスするときもあれば、自慰行為をさせることもある。どちらにしろ、その動画を見る人間は、黒丸になった気分になれる。そして、黒丸にされてる相手の気持ちにもなれる。抱いているのは男なのに、視聴者に女がいて、黒丸サンに抱かれたくて動画見てます、みたいなコメントもあるくらいだ。だから男性女性も含め、視聴者の母数が多くなる」
大橋の言葉を聞きながら、望月は目をぱちぱちと瞬かせている。
「聞いてる?」
「聞いてるよ! いや、大橋くんの分析、なんかすごいなって」
「肝心なのはここからだ」
ぴしゃりと言い放つと、望月は背筋をぴんと伸ばした。
「ソウは典型的なネコだから、黒丸のようにはいかない。今回、女性の視聴者も得られたが、それは寄せられたコメントから察するに綺麗な男の子がいやらしい姿で悶えている姿が見たい女性だ。となれば、見ている側がソウを気持ちよくさせているような動画を意識して作れば閲覧数はもっと伸びる」
「気持ちよく……」
「だから今回から俺は撮影しながらしゃべろうと思う」
「えっ、大橋くんが?」
「実際、俺の音声はあとから編集で消して、字幕にするけど、俺が途中で質問や指示をするから、おまえはそれに応えながらオナニーをする」
「そんなこと……できるかな」
「別にまったく関係ない話をするわけじゃない。行為の途中で、どこ触られるのが好き? とか、どんな風に触られたい? みたいなこと聞くだけでも見ている側は興奮すると思う。あれだよ、AVで最初に流れるインタビューみたいなやつ」
「あ、あの、聞いてもいいかな」
望月は、小さく手を上げた。質問したいから手を上げてるのだろうか。
「はい、どうぞ。っと、その前に湯沸いてる」
「わわわっ」
ケトルの注ぎ口から、もうもうと白い湯気が吹き出していて、望月は慌ててガスの火を止めた。
「で、質問は?」
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