04:すれ違う投稿者と編集者

2/8

709人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「僕も、今朝そのコメントに気づいたんだ」  黒丸のコメントのことを話すと、望月も目を丸くしていた。 「メッセージは、どんな内容だった?」 「実は……黒丸さんだけじゃなくて、メッセージボックスにすごくたくさんのメッセージが届いてて、怖くて見てないんだ」 「マジか……」  以前からメッセージは届いていたが、数えられるほどだったらしい。しかし、ここ数週間で急激に人気投稿者の仲間入りをしたせいで、大量のメッセージが届いたのだろう。 「それに黒丸さん、最近、僕の動画を紹介してくれたみたいなんだ」 「紹介って動画の中で?」 「そう、だから今日は特に、『黒丸さんのオススメで来ました』ってコメントがとても多くて。お礼を伝えたほうがいいのかなと思うんだけど、どう対応したらいいかな」  望月が戸惑うのも無理はない。なんせ、黒丸といえば自分も研究のために、最初に参考にさせてもらったほどの人気投稿者だ。内容もさることながら、編集技術も高い。  それにしても、日々多くの動画が投稿されているというのに、ソウの動画が彼の目に留まるということはランキング効果もさることながら、確実にソウの知名度が上がってきているという証だ。 「まずは、届いているメッセージを確認しよう。俺も一緒に見てもいいか?」 「もちろん、むしろ僕がお願いしたいくらい、僕一人じゃどうしていいか、わからないから」 「大丈夫だ。たとえ殺人予告が来たって文字じゃ人を殺せないよ」 「さ、さつじんよこく!」  目を見開いた望月に、思わず吹き出してしまう。 「バーカ。めったに来ないよ、そんなの」  すっかり怯えた様子の望月の頭をぽんぽんと撫でると、冗談やめてよ、と泣き出しそうな顔になり、それを見て、また笑ってしまう。  こんなやりとりができるくらい、望月は自分の前では素の表情を見せてくれるようになった。大橋のことを全面的に信頼しているのか、撮影中に関して大橋が提案したことは、必ず賛同してやってくれる。それに、撮影以外でも、望月と一緒に過ごす時間は楽しかった。撮影がきっかけでずいぶん打ち解けた気がする。できれば望月と築いた関係は、そのまま継続したいと大橋は考えていた。  パソコンの前に二人並んで座り、望月がメッセージボックスをクリックしてひとつずつ確認する作業を後ろから見ている。内容は動画の感想など、応援のメッセージが大半だったが、卑猥な内容が書かれた悪質なものも一部あった。それはアダルトカテゴリーでは仕方ないだろうし、有名税とも言える。  黒丸からは二通メッセージが届いていた。まずは一週間ほど前に届いた一通目を開く。その書き出しは丁寧で、動画を紹介していいか、事前に確認をとる内容で返事をしないと断言しているソウのためか「問題があるときだけ、お返事頂ければいいです」と書かれていた。 「一応、メッセージは目を通しているって動画の中で言ってるから、なんだろうな」 「ずいぶん紳士的な人だね」 「動画の中では浮かれたパリピみたいな印象受けたけど、実際のこの人は、几帳面でちゃんとしてる。わかんないもんだな」  ネット社会でも、コミュニケーション能力というのは最低限必要だ。個人的なやりとりになれば、なおさら露呈する。  黒丸は最初こそ、自分の自慰行為動画を投稿していたが、ネットでナンパした男性とセックスに持ち込むまでの動画を投稿してから、爆発的な人気を得た。今、このサイトでは、人気投稿者の頂点とも言っても過言ではない。  しかし、ただ動画のクオリティが高いだけでは、人気は維持できない。人間的にも信頼できる常識者である一面も必要になってくる。黒丸ほどの人気者であれば、それくらいは兼ね備えているだろう。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

709人が本棚に入れています
本棚に追加