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しんと静まった部屋で、大橋は、はぁとため息をつく。
「望月」
静かに隣を見ると、望月は目が合わないようになのか、顔を伏せている。
「なんで即答した? どうするかは、後から決めるって話だっただろ?」
「黒丸さんは大橋くんに編集してもらいたいみたいだったし……」
だんだん望月の声が小さくなる。
「それはおまえが黒丸とコラボしなくたってできることだろ、それとこれは別問題だ」
「でも結果、僕がコラボするって言ったことで、黒丸さんには喜んでもらえたし……」
「あのなぁ」
大橋は、だんだんと苛立ってきて、がしがしと自分の頭を掻きむしる。
「そもそもこの先、ソウの動画をどうしようかって話できてないだろ。そのあとで、どうするか決めたって遅くない。一度受けちまったら、もう引き下がれなくなる」
苛立ちに任せてしまい、口調が荒くなっていることには気づいている。けれど、もう抑えが効く状態ではない。
「なんで? 大橋くんは、何を怒ってんの?」
望月は顔をあげ、戸惑った表情で大橋を見つめる。戸惑うのも無理はない。自分も、なぜこんなに苛立っているのかわからないのだから。
「おまえさ、あいつとチャット越しとはいえ、疑似セックスするんだぞ。それでもいいのか?」
「僕がいいなら、いいんでしょ!」
「おまえ……本気で言ってんの?」
望月は返事をせず、大橋から目を逸らしている。もしかして、腹の内は別のことを考えているから大橋と目を合わせないようにしているのだろうか。そもそも、コラボについて、どう思っているのは、望月自身の言葉は聞けていない。何か意地を張る理由があるのか、まったく理解できない。
沈黙が続き、これ以上考えても仕方ないと、大橋は大きく息を吐いた。
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