06:もっと見られて、もっと淫らになって

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 結局、そのあと望月お手製の朝食をごちそうになった大橋は、一旦家に帰り、着替えてから会社に向かった。そしていつもより早く会社に着いて、まだ鍵がかかった総務のフロアの前で人を待っていた。 「おはよう、早いな」  大橋に声をかけたのは、総務課の中で誰よりも早く出勤する課長の太田だった。 「おはようございます」 「君はきっと来ると思っていたよ」 「課長、話があります」 「いいだろう。聞こうじゃないか」  そのまま太田と一緒に喫煙室の隣の自販機スペースへ向かう。何か飲むか、と尋ねられたが、大橋は断った。太田は自分用に買った缶コーヒーを一気に飲み干し、いよいよ大橋に向き直った。 「さて、何から聞こうか?」 「考えてもわからなかったことがひとつだけあります。それは黒丸と課長の関係です」 「ああ、なるほど。確かにそれはわからないだろうね」 「単刀直入に言います。俺はソウの動画の編集に関わってました。そして、望月とは話し合って付き合うことになりました。望月の恋人になった今なら、聞く権利があると思うのですが、違いますか?」  大橋の言葉に太田は少し驚いた顔を見せたが、へぇ、とすぐに顔を緩ませた。 「それは早く、黒丸に知らせてやってくれ。彼は、君たちのことを応援していたからね」 「は?」 「黒丸は、私の実の弟だよ」 「弟?」  関係者だと思っていたが、まさか肉親だとは思わなかった。確かに、太田の弟なら礼儀正しくて当然だと思った。思えばあの記憶力、数年前の自分の動画の技術まで覚えていたというんだから兄弟揃って記憶力がタダモノではない。そういえばどことなく声も似ている気がする。 「ちなみに弟が、黒丸と名乗って何をやっているかは知っている。我が弟ながら、派手に遊んでいると思うよ。私の家で」 「一緒に住んでいるのですか」 「ああ。私がいろいろあって離婚してから、大学を中退してフラフラしていた彼を引き取って、今は、金銭面の面倒を見ている」 「なるほど……」  意外にも、いい兄ぶりに驚く。そういえば今まで自分は太田のことを口うるさい役職者という印象しかなく、プライベートの話なんて聞いたことがなかった。 「あの日、私が休日出勤から戻ったら、弟の部屋から望月の声がするから驚いたよ。事情を聞くとソウという男の恋愛相談の相手をしてたというじゃないか」 「れ、恋愛相談?」  その日はコラボ撮影をしていたのではなかったのか。 「そのソウが好きな相手は一緒に動画編集をしている仲間で、会社の同僚だというからピンときたね。ソウが望月くんなら、相手は、君か、と」 「あ、あー……」  一気にすべての点が線で繋がった。自分は太田の術中にハメられたのだと察した。  望月はコラボ撮影が失敗に終わり、黒丸に自分の好きな相手のこと、すなわち自分の話をしたのだろう。それをたまたま、帰ってきた黒丸の兄である太田が聞き、事情を把握する。そして煮え切らない望月をけしかけるために事情を知っていると脅した。予想通り動揺してアカウントを消した望月に、小島から太田とのことを聞かされた自分が詰め寄る。これはすべて太田が仕掛けたもので、それに自分も望月もまんまと乗せられたのだ。 「私がわざわざ、君とツーカーな小島が通り過ぎるタイミングを見計らって、望月にけしかけて、キューピット役を買って出てやったのだ、感謝しろ」 「頼んでませんけど……」  とはいえ、結果、太田の策略のおかげで望月とは気持ちを確かめあうことができたので感謝しなくてはいけないのかもしれない。  事情がわかった今、あと確かめたいのはひとつだけだ。 「あの、課長は望月のことは……」 「君がいらないなら、もらうが?」 「あげません」  きっぱりと言いきると、太田はくっくっく、と声を押し殺して笑った。 「その分だと、望月は君に私のことを話したんだね」 「聞きました」  大橋は太田を睨みつける。事と次第によっては、太田をセクハラで訴える覚悟だ。 「そんなに睨むな。望月があまりにも純粋無垢でかわいかったから、ちょっとからかっただけじゃないか」 「上司が部下にしていいことではありません」 「しかし、今でも望月は私に感謝しているぞ。教えてくれてありがとうございますってな」 「う……」  悔しいが、きらきらと目を輝かせながら太田にお礼を伝えている望月の顏がすぐに浮かんだ。清々しいほどに天然無邪気なのだから仕方がない。
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