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「もとから望月は、私が親切心で教えてくれたものだと思っているし、下心があるなんて思ってもいないだろうな。あまりにも純粋無垢で、こっちが面を食らったほどだ」
話を聞けば聞くほど想像がつくし、むしろ太田が気の毒に思えてくる。
「まぁ、でも彼はずっと前から、同期の君のことが気になっていたようだから、私のことなんて、眼中になかっただろうよ。同期会のある日は、いつも朝から浮かれているしね」
「そうなんですか」
太田にまで、望月の気持ちは知られていたようだ。急に恥ずかしくなってくる。
「最近の望月くんは、君と関わるようになってから、以前と見違えるほど、明るくなったし、きっと彼を幸せにできるのは間違いなく君だ。だからこそ、こうして君たちがうまくいくように、協力したんじゃないか」
「それは、その、ありがとうございます」
確かに結果的には、太田のおかげで自分たちは恋人になれたのだ。
「その分だと知らないようだから、教えてあげよう。望月に動画投稿サイトを教えたのは私なんだ」
「え」
そういえば確かに望月は、動画に興味があるって話を会社の人にしたら、動画投稿サイトを教えてもらったと言っていた。
「そうすれば、編集をしていた君に教えてほしいって言うだろうし」
確かに、望月は自分が動画編集してたことを同期会で知った。その相談も太田にしていた、ということになる。しかし、その時点から太田が絡んでいたなんて、思いもしない。望月は最初から自分に動画編集を教えてもらうつもりで、動画投稿を始めたなんて、自惚れていいだろうか。
「さて、話は終わっていいか? そういえば君、先週出した交通費申請、間違っていたから出し直すように」
「う……あいかわらずネチネチと」
「何か、言ったかね」
太田は銀フレームの眼鏡をくい、と上げながら、ほくそ笑む。
「早かれ遅かれ、身を引くべきだったんだ。あんな動画を投稿しているような人間はダメになる」
「それ、自分の弟に言ってください」
「黒丸はいいんだ。ときどき、かわいい男の子を私に紹介してくれる」
「おい、グルかよ」
「それでは失礼する。もうアカウントも消したようだし、あとは二人で勝手にしろ」
ぶっきらぼうな言い方だけれど、意外にも太田の優しい一面を知った。口うるさいのはきっとこれからも変わらないだろうが、恋人の上司ということもあるので受け入れなければ。
何はともあれ、これで一件落着だ。
大橋は望月にメールをするためにスマホを取り出した。
『すべて謎は解けたよ』
それだけ送ると、すぐに返事が戻ってきた。
『どういうこと?』
今頃、目をぱちくりさせて驚いている望月の顔が想像できる。
その返事は今度、会ったときにしよう。自分たちを応援してくれた人がいたことをわかるように説明してやらなくてはいけない。
みんなに愛されたソウは動画の世界から消えたが、そのかわり自分が望月湊を愛していく。しっかりしてそうにみえて天然なところも、純真無垢な一面も、かわいらしい笑顔も、時々拗ねるところも、そして、あのいやらしい姿も、すべて自分だけのものだ。
もっと俺に見られて、もっと淫らになればいい。
どんな姿の君でも、俺は全部受け入れるから。
完
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