01:やるからには本気で

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「あ、おまえ飲めないんだっけ。じゃ俺も烏龍茶くださーい」  それに加えて自分は、一人になっている人間は声をかけたくなってしまう、そんな性分でもある。隣に大橋が座ると、小柄な望月が大橋を見上げた。 「大橋くん、近くで見ると大きいね」 「ん? ああ、そうかも。そういうおまえは小さいな」 「そうかも。背も165センチしかないしね」  大橋は、高校のときバレー部にいたせいか、身長は180センチを超えていて、散々鍛えられたおかげでガタイもいい。けれど、生まれつきのタレ目がその体を柔らかく見せているようだ。それに比べて、望月は、体つきだけじゃなく、顔を形成するパーツがどれも小ぶりで、唯一、瞳だけは大きく、気持ちと連動するのかよく動く。 「もしかして、僕に気を使ってくれたんじゃない? 僕は一人でも大丈夫だよ」  望月にあっさりと気遣いを見破られ、肩透かしを食らう。だからといって、はいそうですか、と引き下がれない。 「いや、おまえとサシで話したことないなと思ってさ。あー、烏龍茶こっちでーす」  周囲を見渡していた若いバイトが、大きな声の大橋を見つけて、安堵した顔を浮かべて烏龍茶を手渡す。他のメンバーは個室の中で、それぞれ二グループくらいにわかれてかたまり、楽しそうに談笑していた。 「大橋くん、僕なんかよりみんなと話してるほうが楽しいんじゃない?」 「楽しいかどうかは、俺が決めるの。望月、趣味は? 休日は何してる?」 「何それ、お見合いみたい」  大橋は少しだけ目尻を下げた望月をみて、心の中でガッツポースをした。たとえ呆れ半分であっても、自分と話すことに興味を持ってもらえれば話しかけてよかったな、と思う。こういう風に人間関係が広がっていくことに喜びを感じる自分はつくづく営業職に向いているなと思う。 「そういえば、大橋くん、去年の同期会で大学生のとき動画の実況してたって言ってたよね」 「ああ、ゲーム実況ね。友達同士でやってたよ、モテたくて!」  ゲーム実況とは、テレビゲームなどを実際にプレイしている画面を動画サイトに投稿することで、大橋が大学生のころに動画を作って投稿することが流行り始めたのだ。素人でも動画の閲覧数が多ければスターになれる。特に容姿も関係なく、とにかく動画が、注目されれば、一躍有名人になれたのだ。あの頃の自分が作った動画は編集技術において、ネットの中で一目置かれていた。  オーディオ機器を扱う会社に就職したのも、その頃身につけた知識が営業の役に立つかもしれないと考えたからだったが、就職してから、動画に関してのプロと呼ばれる編集の人間を目の当たりにし、その技術力の高さに驚いた。しょせん自分の技術は素人に毛が生えた程度で、趣味の域を超えないものだったのだと今は思う。
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