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以前、自分が動画投稿をしていたという話題が出たときは、自分の技術について話したかったのではなく、モテたいがために、こんなことしたという自虐話のひとつとして、持ち前のサービス精神が、場を明るくさせようとネタを提供したようなものだった。もちろんそれだけでは済まされず、同じ営業仲間の小島が、持っていたスマホで大橋が過去に投稿した動画を晒すという顛末になったがその場は大いに盛り上がった。
「まぁ、閲覧数は思っていたより伸びなかったし、結局、就活が忙しくなって、動画どころか、ゲームもやらなくなったな」
「でも、小島くんは大橋くんの編集技術はすごかったって言ってたよ?」
「ははは。あの頃の俺、本当に必死だったからさ」
モテるために必死で動画編集の勉強をしたという事実は、今では立派な黒歴史、いわゆる若気の至りというものだ。
「今でも編集機材とかあるの?」
「いや、ああいうのって機材とかほとんどいらないんだ。フリーソフトとか、ちょこちょこっと揃えて。とにかく手間かければそれなりのもんできるし」
「あのさ! 僕、ずっと大橋くんに動画を教えてほしいと思ってたんだ」
望月が、ぐっと身を乗り出してきたことに大橋は驚く。そもそも望月が自分に興味を持っていてくれたことも驚きだ。
「そりゃ構わないけど、何、おまえそういうの興味あるの?」
「うん、実は自分で動画を撮影してるんだけど、いろいろアドバイスしてもらいたくて」
「へぇ、そうだったのか!」
いつもの大橋なら「こいつも動画撮影してるんだって」と大きな声で囃し立てて、周囲の注目をひきつけ、普段あまり中心になることのない望月を、表舞台に引っ張り出しただろう。けれど、あのおとなしい望月が、どんな動画を撮影しているのかも気になるし、何より今まで接点のなかった望月が、自分が動画編集していたことを覚えてくれて、いつか教えてほしいと思っていたことに、少なからず気分が良くなったのだと思う。
望月は会社の中でも総務の仕事をそつなくこなすと評判だったが、あまり社交性はなく、誰かと仲がよいという話も聞かない。そんな望月がどんな動画を扱っているのかに興味を持った。
「わかった。俺、週末暇してるから、いつでも」
「本当に? じゃ日曜日に撮影予定してるんだけど、うちに来る?」
「行く行く!」
軽い返事から、そのあと連絡先を交換し、約束どおりに望月の家に来たまではよかったが、まさか、望月のオナニー自撮り撮影に立ち会うことになるとは思わなかった。
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