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「おまたせ」
パソコンの画面を凝視していた大橋は、後ろから声をかけられ、我に返って振り向くと、そこには風呂上がりの望月がTシャツにハーフパンツ姿で戻ってきていた。
「おう」
「で、僕の動画、どうだった?」
「うーん……」
望月がシャワーを浴びにいっている間に、大橋はパソコンを借りて、これまで望月が投稿した動画を見せてもらっていた。
「うーん、どれもそれほど変わりばえしないっていうか」
「ああ……」
すでに十本ほど投稿されている動画は、顔の表情と見せていいギリギリの角度で撮影された同じようなオナニー動画だった。
望月は大橋の隣にきて座り、同じようにパソコンの画面に顔を近づける。大橋の鼻先に甘ったるいボディシャンプーの香りが漂う。
「まぁ、男が好きな奴が見れば、十分ヌケる動画なんだと思うけど、継続して投稿していくなら、回を重ねるごとに変化をもたせたほうがいいんじゃないかな」
「十分ヌケる……」
流れている自分の動画を見つめている望月は小さく呟く。
「あ、ごめん。そういう目的じゃないなら、いいんだ。俺が動画やってたときは、閲覧数稼ぎたかったから、見てもらうことに重きを置いてて、だからおまえの動画って編集とかそういうことよりも、単純にコンテンツの見せ方次第っていうか、なんていうか」
望月は、ついに俯き、黙ってしまった。
自分はいろんな人に見てもらうために、動画について研究を重ねたこともあるせいか、プロデューサーのような目線で見てしまいがちだ。けれど、望月からは編集を教えてほしいと言われていただけなのに、こんなことを言うなんて余計なお世話だったかもしれないと思い直す。忠告にも似た感想なんて求めていないのではないだろうか。かえって傷つけてしまったのではないだろうか。
「大橋くんってさ」
「な、なに?」
急に顔をあげた望月に驚き、大橋は望月の言葉を待った。
「前から思っていたけど、本当に、根っからポジティブな人だよね」
「え? ああ、そうかな。つーか、それ、どっちの意味?」
「僕は褒めてるつもりだけど?」
望月が、ふにゃ、と顔を緩ませて笑う。初めて見る、無邪気な表情にドキッとする。
「僕も最初は、動画を作ることだけで満足してたんだけど、時々、"これからも楽しみにしてます"ってコメントをもらったりして、それに対してどう応えていけばいいのか、わからなくなってたんだよね」
ひとまず望月の返事が、自分の言葉で気分を害したわけではないことがわかり安堵する。
「じゃあ、おまえの目指すところは、どこなの?」
「え……」
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