01:やるからには本気で

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「どうせ体張って動画作るなら、このサイトで、何か目標とかあってもいいと思うんだけど」  大橋の言葉にあっけにとられている望月だったが、それなら……と小さくつぶやき始めた。 「この……僕をお気に入りにしてくれている人が増えたら嬉しいな」  望月は動画投稿サイトの画面の中にある、ステータス項目を指さした。ソウ、という名前の動画投稿者の横には数字で23と記載してある。 「ソウ、ってここでのおまえの名前?」 「うん、僕、みなとって名前なんだけど、湊って漢字使うから、そこから」 「なるほどな。で、今は二十三人がおまえをお気に入りにしてくれてるのか」  投稿するアカウントをお気に入りにする特典は、動画の更新通知が届いたり、限定の動画を閲覧することができたりする。そして何より、自分に動画を待ってくれている多くのファンがいるというのが自信につながるだろう。 「それなら、もっと見てもらえる動画に仕上げなくちゃな。次の動画はカメラを固定するんじゃなくて、俺がカメラ持って、動きながら撮影するってのは?」 「えっ」 「なんていうか、違う角度からも見たいって思うんだよな。少なくとも、おまえを性の対象として見るやつもいるだろうし」 「ちょ……ちょっと待って、僕、そんなつもりじゃなかったけど」  目の前の望月の顔がみるみる赤くなっていく。 「はぁ? おまえ何言ってんの。そもそもおまえが投稿してる動画のカテゴリーはアダルトなんだぞ。見るやつは、抜くための動画を探してるに決まってるだろ。二十三人は、きっとおまえの動画をオカズに抜いてんだよ」 「え、じゃあさっきの十分ヌケるって、もしかして……そういう意味?」  望月の表情からすると、どうやら言葉の意味を理解してなかったようだ。あまりの純情っぷりに、また望月のギャップに驚かされる。真面目ゆえなのだろうか、それにしても天然でなおかつ、こんな純真無垢な一面を持っているのだなんて思いもしない。 「おまえ、自分の動画をどんなやつが見てると思ってんの?」 「え、その……なんか、興味本位とか?」 「それだけで閲覧数は伸びないだろ。みんな、おまえのこと、いやらしい目で見てるんだって」  追い打ちをかけたせいか、望月はついに、自分の顔を両手で覆ってしまい、マジかぁと呟いている。全裸のアダムとイブが禁断の果実を食べて、自分たちが裸だと知り、恥ずかしくなる気分ってこんな感じなんだろうと思う。 「なぁ、今、撮影してみないか?」 「え、今?」 「そう、その恥ずかしい気持ちのままで」 「無理、絶対に無理!」  すでに望月は大橋と目を合わさなくなっている。ようやく自分をただの部屋にいるだけの同期ではなく、ギャラリーとして意識し始めたようだ。
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