10/11
前へ
/28ページ
次へ
「温人君が好き……って、告白するつもりだった」 風が吹き、金木犀の梢を揺らす。オレンジ色の花房が、ぽとりと地面に落ちた。温人は腰を屈めて拾い、指先に挟んでくるくる回した。 「あの頃の俺はまったくの子どもで、嫌われたと思い込んでいた」 「え?」 花の香りをかぐと、彼は微笑む。少年のように明るく、熱を帯びた瞳に私が映っている。 「島村あずみ。俺も、君が好きだよ」 好きだよ―― 好きだよ―― 私の頭の中で、温人の声が反響する。信じられなくて、口をぽかんと開けたまま彼を見上げるばかり。 「同じビルで、初恋の彼女が働いていると気付いたのは先週のこと。俺は25階のオフィスに配属されたばかりだった」 金木犀を胸ポケットに挿すと、温人は歩き出した。いつの間にか私の手を取り、ゆったりとした歩調で。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

100人が本棚に入れています
本棚に追加