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「温人君が好き……って、告白するつもりだった」
風が吹き、金木犀の梢を揺らす。オレンジ色の花房が、ぽとりと地面に落ちた。温人は腰を屈めて拾い、指先に挟んでくるくる回した。
「あの頃の俺はまったくの子どもで、嫌われたと思い込んでいた」
「え?」
花の香りをかぐと、彼は微笑む。少年のように明るく、熱を帯びた瞳に私が映っている。
「島村あずみ。俺も、君が好きだよ」
好きだよ――
好きだよ――
私の頭の中で、温人の声が反響する。信じられなくて、口をぽかんと開けたまま彼を見上げるばかり。
「同じビルで、初恋の彼女が働いていると気付いたのは先週のこと。俺は25階のオフィスに配属されたばかりだった」
金木犀を胸ポケットに挿すと、温人は歩き出した。いつの間にか私の手を取り、ゆったりとした歩調で。
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