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新型肺炎と政策
このたびの新型肺炎の流行にあって、あらためて、
様々な政策の連携が必要であることを実感しました。
1 文明の六要素
私見である〝文明の星〟理論(仮説)に立ちますと、
文明には次の6要素があります。
A 科学・技術(社会的な事実認識)
B 経済・社会活動(社会的な現実行動)
C 制度・政策(社会的な意思決定)
Ⅰ 物的資源(科学・技術が経済・社会活動を豊かにするための条件)
Ⅱ 人的資源(制度・政策が経済・社会活動を健全に保つための条件)
Ⅲ 自然・社会環境(制度・政策が科学・技術を開発するときの条件)
以上の要素の関係は、頂点から右回りに
A→Ⅰ→B→Ⅱ→C→Ⅲと並ぶ六芒星、
いわゆる〝ダビデの星〟あるいは〝籠目〟の紋様で
説明することができます。
2 政策の四分類
文明活動の本体は、全ての人々が営む経済・社会活動であり、
科学・技術はそれを豊かにするため、
制度・政策はそれを健全に保つために分業化した活動とすると、
後者には4つの経路が考えられます。
(技術もまた、同様に左右対称の形で4種類に分類できますが、
詳しくは、拙作『文明の星』をご覧いただければ幸いです。)
(1) 直接ルート :経済・社会政策
経済・社会活動に直接働きかけて人々の利害関係を調整し、
健全に保つ政策。
金融・財政・産業政策、福祉・保険・労働政策などがこれにあたります。
(2) 間接ルート:人的資源政策
政策の立案や支援・活用・改善に必要な、
社会における健全な人的資源を育成・確保する政策。
教育政策や保健(公衆衛生)政策がこれにあたります。
(3) 自助ルート …… 行政管理政策。
広い意味では経済・社会活動の一部ともいえる、
政府自身における政策の立案・実施を管理して、健全に保つ政策。
施設、組織、予算や人事に関わる政策がこれにあたります。
(4) 互助ルート …… 技術的(いわゆるハード的)政策。
広い意味では経済・社会活動の一部ともいえる、
技術の健全な開発・普及・活用を助ける政策。
これはさらに、相手方となる技術の分類に応じて、
次の3つに分かれます。
① 文明文明発展の直接的な動因となる主力(核心)技術を助ける、
社会工学的政策。
② 主力(核心)技術を物的資源化する関連(周辺)技術を助ける、
社会基盤(インフラ)政策。
③ 科学研究・技術開発のための研究・開発技術を助ける、
研究・開発政策です。
3 新型肺炎に関わる政策
テレビ、新聞、雑誌やインターネットから得た情報だけでも、
新型肺炎を巡っては次のような政策が論じられていました。
経済・社会政策:
医療サービスや医薬品・衛生用品の流通確保、
経済的被害の低減のための、関連産業への支援や規制。
子どもや高齢者を守るための支援。
人的資源政策:
栄養・保健水準や衛生教育・啓発など、
普段からの健康・教育水準の向上。
行政管理政策:
国際的な配慮や現場意見の活用、国民の協力、
行政と医療など様々な専門分野間の連携といった、
政策の大規模化と分権化、高度化への対応。
技術的政策その1、研究・開発政策:
軍事的な技術開発の危険性や、疾病解明・医薬開発の必要性。
技術的政策その2、社会基盤(インフラ)政策:
緊急医療施設や医療設備・資材の確保。
技術的政策その3、社会工学的政策:
感染拡大や社会的混乱の防止のための、
移動規制や社会啓発。
ひとつの新興感染症の流行に対しても、
以上のように、全ての政策による対応が必要となることが分かり、
あらためて各種政策の連携の必要性が実感されました。
4 文明の潮流
文明発展の原動力となる主力(核心)技術は、
技術の難易度や自然環境との関係によって、
性質が変わってきました。
これに伴う社会環境や人々の価値観の変化を受けて、
各種の政策の間においても、
重心が移行してきたのではないかと思います。
農業~工業技術は、食料生産や機械・器具の製造など、
富の生産に役立つ技術なので、
その時代には灌漑や国防のように、
富の生産(安全を含む)に関わる技術的政策が中心でした。
工業~情報技術は、物資の輸送や最適配分といった、
富の分配にも役立つ技術なので、
その時代には産業立国や福祉国家のように、
富の分配(再歳を含む)に関わる経済・社会政策も重要になりました。
情報~人工知能技術は、富を作って分ける我々自身の知的活動の、
代行支援や能力向上さえも可能とする技術なので、
保健・教育など人的資源政策の重要性が増えてくると思います。
(詳しくは拙作『文明の潮流』に記しましたので、
ご覧いただければ幸いです。)
5 文明発展の未来
私達は、資源・環境問題のような技術的政策の課題や、
社会保障と経済発展の両立といった経済・社会政策の課題だけでなく、
今や人的資源政策の課題にも直面しています。
最近の世界的・総合的な政策課題としてよく聞かれる、
〝持続可能性〟という言葉も、このことを示していると思います。
主として環境の持続可能性は、技術的政策に関するもの、
経済の持続可能性は、経済政策に関するもの、
そして社会の持続可能性は、社会政策だけでなく、
それと関係が深い人的資源政策に関するものも含んでいます。
政治(行政)の持続可能性は、
行政管理政策に関するものとなります。
(詳しくは拙作『文明の持続可能性』に記しましたので、
ご覧いただければ幸いです。)
特に人的資源政策の課題としては、少子高齢化など社会変化のなかで、
経年・経代的な健康(精神・社会的含む)健康水準の低下や、
社会活動の拡大や複雑加速化に対する教育の追随困難が心配されます。
人的資源政策を、健康や教育という、
人々にとって最も重要な富の増進のための政策と見れば、
その問題は人々自身による、そうした富の活用のための政策ともいえる、
行政管理政策にも影を落とすことになると思います。
今回の新型肺炎でも、私のような中高年男性への危険性が高いと知り、
また高齢化社会では対策の困難度も増しているのではないかと思い、
他人事ではない心配を覚えました。
恵まれた時代に生きる私達は、かつて富の生産と分配や人間の向上が、
文明群の発展と拡大だけでなく、それに伴う悲劇、
戦争や災害、疫病などの淘汰によってもなされてきたことを、
直視する必要があるのかもしれません。
しかし地球規模の自然的限界や社会的統合に近づき、
生活水準の向上を達成しつつある私達には、
もはやそうしたあり方を続けることはできないと考えます。
より少ない犠牲や損失、費用、危険で
より大きな福利や利益を求めることは、
原罪や業とも称される知性を持った、人間の性だからです。
それを可能とする、次世代技術は現れつつあります。
人工知能(AI)を中心とした、新素材・新エネルギー、
IoTとビッグデータ処理、知能ロボット、
生物工学/生体工学技術、
先進医療、先進教育などの技術です。
それは生物など自然物と、機械など人工物の垣根を取り払い、
いわば良いとこ取りで両者の持続可能性を高める、
(人間自身の体内環境も含む)自然環境や社会環境に優しい、
持続可能性(環境親和)技術ともいうべき技術です。
各種の政策が連携して、こうした新技術の健全な開発・普及を助ければ、
新技術もまた、各種の政策を支援してくれるので、
相乗効果で経済・社会活動の生産性と健全性を高めていけるでしょう。
新世代の技術と総合的な政策が、環境や経済の持続可能性に加えて、
人間的な手段による我々自身の向上を含めた、
社会の持続可能性も達成できるよう、私は切に願います。
そしてさらには、向上した世界中の人々の能力を活用して、
政策の巨大化・分権化・高度化に対応できるような、
行政の持続可能性も実現できるよう、願っています。
私達がそれら全ての政策に渡る持続可能性を達成し、
この惑星上における〝文明の持続可能性〟を実現できれば、
次にはそれが、宇宙船や宇宙植民地といった、
より小規模な閉鎖系から始まる、
人類文明の宇宙進出にも役立つのではないでしょうか。
人類文明がさらに発展を続け、永続してゆけるよう期待します。
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