恩寵

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 聖堂からは、次々と人が運び出されていった。 その数は、五十人は下らぬだろう。 次にの一団は、痩せさらばえた者達の前に立った。  「貧しい農村の者達だろう。これで彼等は、もう飢えや渇きで苦しむこともない」  男は言った。 旅人は、居並ぶ人々の中に、幼い子供を抱いた母親であろう女の姿を見つけた。 が、母子の前にやってくると、母親は腕に抱いた子供を(かか)げた。 歳の頃は、二つ、三つといったところであろうか。 枯れ枝のような手足が、薄汚れたお包みからはみ出て見えた。  それまでなんの心の動きも見せなかったが、一瞬、躊躇うような素振りを見せ、背後の従者を振り返った。 次の瞬間、旅人は、弾かれるようにして人々を掻き分け、広間へと駆け出していった。  「待てっ!!待ってくれ!!」 「止せ!!子供だろうっ!!」  旅人の声が、堂内に響き渡った。 旅人は、声を限りに叫びながら母子に駆け寄ろうとした。 何処からともなく修道士達がわらわらと集まってきて、旅人の行く手を塞いだ。 旅人は、修道達に制され、抱え上げられながら、なおも叫んだ。  「やめろっ!!」  が、束の間、旅人を見た。 何色(なにいろ)ともつかぬの目と、旅人の目が合った。 一点の曇りもない磨き抜かれて澄み切った宝石のような瞳。 自分達、人と同じ血が通っているとは俄に信じがたい、世俗の(けがれ)をまるで知らぬ彫像のようだと、旅人は思った。 の背後にいた従者が、の耳元で何事か囁いた。 は、母子に向き直ると、再び(りん)の音が鳴り、祝福の声とともに、手を翳した。
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