22人が本棚に入れています
本棚に追加
聖堂からは、次々と人が運び出されていった。
その数は、五十人は下らぬだろう。
次に原罪おとしの一団は、痩せさらばえた者達の前に立った。
「貧しい農村の者達だろう。これで彼等は、もう飢えや渇きで苦しむこともない」
男は言った。
旅人は、居並ぶ人々の中に、幼い子供を抱いた母親であろう女の姿を見つけた。
原罪おとしが、母子の前にやってくると、母親は腕に抱いた子供を掲げた。
歳の頃は、二つ、三つといったところであろうか。
枯れ枝のような手足が、薄汚れたお包みからはみ出て見えた。
それまでなんの心の動きも見せなかった原罪おとしが、一瞬、躊躇うような素振りを見せ、背後の従者を振り返った。
次の瞬間、旅人は、弾かれるようにして人々を掻き分け、広間へと駆け出していった。
「待てっ!!待ってくれ!!」
「止せ!!子供だろうっ!!」
旅人の声が、堂内に響き渡った。
旅人は、声を限りに叫びながら母子に駆け寄ろうとした。
何処からともなく修道士達がわらわらと集まってきて、旅人の行く手を塞いだ。
旅人は、修道達に制され、抱え上げられながら、なおも叫んだ。
「やめろっ!!」
原罪おとしが、束の間、旅人を見た。
何色ともつかぬ原罪おとしの目と、旅人の目が合った。
一点の曇りもない磨き抜かれて澄み切った宝石のような瞳。
自分達、人と同じ血が通っているとは俄に信じがたい、世俗の穢をまるで知らぬ彫像のようだと、旅人は思った。
原罪おとしの背後にいた従者が、彼の耳元で何事か囁いた。
原罪おとしは、母子に向き直ると、再び鈴の音が鳴り、祝福の声とともに、手を翳した。
最初のコメントを投稿しよう!