恩寵

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 「なんということだ!それでは、あれは殺しているのも同じではないか?!」  「そうではない。彼等は全ての罪と欲から開放され、穏やかに現世の終わりを迎える用意が出来たのだ。この世にある、他のどの死よりも安らかな終わりを得たのだ。この国の者達は皆、神の恩寵(おんちょう)(もと)に、自らその時を選ぶことが出来るのだ」  「なんだと?何が神の恩寵(おんちょう)なものかっ!!では、あの罪人達はなんだ?!あれは罰なのではないのか?」  旅人は、語気を荒げて吐き捨てるように言った。  広間に居た全ての罪人達が、運び出されたところだった。 聖堂内に修道士達の美しい賛美歌の歌声が響き、神官達の祝詞が終わると、次には、老人達の前に立った。  (りん)の音が鳴らされ、祝福の呼び声とともに、が手を翳す。 老人達も、次々と倒れ伏し、そして先の罪人達と同様に修道士達に運び出されていった。
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