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「どうした、砂和。朝から景気の悪い顔しやがって」
「青海先生、……おはようございます」
「無垢はどうした、一緒じゃないのか?」
通勤電車で青海と乗り合わせた。背が高く体格の良いその身体は満員電車でも一際大きく目立っている。
「何、痴漢だって?」
「無垢が言ってました、この間痴漢にあったって」
「それはけしからんやつだな、無垢もあんなに髪を伸ばすから」
「本当に……私も言ったんですけどね」
「心配で仕方ないか?」
「ええ、それはもう……え、青海先生何笑っているんです?」
「はは、いやすっかり保護者の顔になるんだな。無垢が来るまでお前はいまいち何を考えているのかわからなかったから意外だよ」
「……」
保護者の顔、確かに私にとって無垢は唯一の身内とも言える存在だ。まだ高校生、その心配をして何が悪い。
「青海先生……あの」
なんだか恥ずかしくなって青海に言い返そうとした、その時だ。車内の出入り口付近で声が上がり誰かが言った、痴漢だと。
長い髪の背中を狙った太った中年の男をたくましい青海の腕が捉えた。ちょうど電車は停車駅で、人の流れに乗って男とともに青海が降りる。
「君、大丈夫かい……って、え」
私はそっと痴漢の被害者を伺う。肩まで伸ばされた細身の背中、しかし振り向いてみればそこにいたのは……。
「む、無垢?」
「……どうも」
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