傷の手当て

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傷の手当て

「……ああ」  ようやく眠れたかと思ったのに、もう目が覚めてしまった。まだ午前三時じゃないか、起きるには早いし……窓の外では雨が降っているのか、窓ガラスを水滴が叩く。ふと左手首に痛みを感じて見てみれば真夜中の明かりの中でもわかる、引っかき傷。つい気になって引っ掻いてしまう、無意識にこんなことをしてしまったら困るな。まるでこれじゃあ……。 「いや、違いはないか」  それは手首を切って自殺でも試みたような、表面の傷ついた皮膚の真下に残るこの傷痕とはもう十六年の付き合いになる。しかし当時の記憶は曖昧で、それどころか向島の家に来るまでの記憶は今ではほとんどないと言っても構わない。  とある街の、小さな家で起きた悲惨な出来事。それ以上思い出そうとすれば決まって気分が悪くなる。  私は慌てて全てを忘れるように深呼吸を繰り返して、泣きたくなった目をこする。隣の無垢の部屋からは小さな音量で、最近テレビで流行っているロックバンドのアルバムが繰り返し再生されていた。
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