傷の手当て

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「砂和さん朝飯食べないの?」 「なんだか疲れが抜けなくってね。私の分も食べなさい、無垢」 「無理だよ、朝から二人前なんて。せめて野菜だけでも食べろっていつも自分で言ってるじゃん」 「……」 「もしかして、夢見でも悪かった?」 「あ、いや……」 「手首腫れてるよ」  軽く絆創膏だけ貼って済ませておいた左手首の傷痕は朝になればみみず腫れ。無垢は私の悪癖を知っている。 「昔みたいに一緒に寝てたら止めてやったのに」 「反抗期は終わったのか?」 「何それ」 「お前の年頃じゃあ一人になりたいものだろう」 「別にそこまででも……あーあ、見た目より深い傷じゃん。爪切ってないから」  私の手に無垢の白く細い指が触れた。本来無垢の方が私よりも器用なのだ。先日短くした髪も、流行りに乗って整髪料を使い器用に雑誌モデルのようなセットしている。 「遅刻するよ、無垢」 「こっちのが大事、砂和さん自分でちょっとここ押さえていて」  無垢の言葉に従って、器用に巻かれた包帯を押さえていればすいすいと綺麗な手首になった。長袖シャツをめくらなければ傷があることすらわからない。 「無垢、ありがとう」 「いいえー、でもさ無意識でもそれやめなよ?」 「ああ……」  すっかり今朝は無垢にほだされている。いつの間にかしっかりと物事を言うようになって……。 「ほら、遅刻するから行くよ、……向島先生」   そうして二人一緒に玄関を出る。雲ひとつない朝の空、すっかりもう雨は上がっていた。
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