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「それでは今から小テストを始めます。もし答案用紙でわからないところがあったら黙って手をあげるように。では、はじめ」
受け持ちの一年二組の国語授業、出口に近い一番後ろの席から無垢が時折私を見ている。周りでは入学して一ヶ月以上たった今、緊張もほぐれたのか居眠りをする生徒も少なくない。大きな声で怒鳴りつけたら多少は改善するかもしれないが、柄でもない恐怖政治のようなことはしたくなかった。それが青海だったりしたら多少は違うのかもしれないが。
早々に問題を解き終えた終わった生徒がちらほら、その中でも無垢は一番早くに答案用紙を裏返して眠り始めた。今日のテストは無垢には簡単すぎるだろう、無垢のその成績は首席を争うようなものだった。ここじゃないいわゆる進学校にだって通えただろうが無垢はこの学校以外受験しなかった。将来は進学するのだろうか、出来ることなら大学まで行かせてやりたいけれど……。
ちらり、と自分の手首に目をやった。巻かれた包帯から血が染み出している気がして慌てて目をそらす。染み出すわけがない大丈夫、そこまで深い傷ではないのだから。これはいわゆる白昼夢か、息が出来ないほどの動悸がする。やめろ、ああ、私の腕を掴んでいるのは誰だ。
「向島先生、わかりません」
その声で我に返り、声の聞こえた方を向く。そこでじっと私を見つめていたのは、一番早くに解答を終えていたはずの無垢だった。私を夢から引き戻してくれたのか……目と目が合って少し震えて、だけど思ったより無垢は私を見ている。
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