ある男の贖罪

1/1
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

ある男の贖罪

 私は少女を殺してしまった・・・・・・。  居眠り運転で少女を轢き殺してしまった・・・・・・。  連勤が続き疲労が貯まっていたのだから、仮眠してから家に帰るべきだったのに、早く家に帰ってゆっくり寝たいと思う気持ちの方が強かった・・・・・・。  気付いた時は病院のベッドの上だった・・・・・・。  弁護士には止められたが、少女の葬式に行った・・・・・・。  泣きながら土下座して(ゆる)しを乞う・・・・・・。  少女の両親に罵倒され、物を投げ付けられ、親族に斎場の外へ放り出された。  「お前が何で生きてんだよっ!死ねよっ!」  少女の兄と思しき少年が、そう叫んで私を殴る。  私は死にたかった・・・・・・。  刑務所でも手紙を書き続けたが、全て封も切られずに返って来た・・・・・・。  私の罪は法律では償えても、あの家族には一生償えない・・・・・・。  刑務所を出てから職に付き、給料の半分を毎月振り込んでいる。  今日も振り込みを終えて銀行を出た。  細い路地に入って暫くして。  「おいっ!」  背後から呼び止められて振り向くと、鬼の形相で私を睨む少年が立っていた。  この眼を覚えている・・・・・・。  忘れられるはずも無い・・・・・・、あの少女の兄と思しき少年だった。  彼はいきなり私にぶつかって来た!  それと同時に腹部に鈍い痛みを感じた。  見るとナイフが腹に刺さっていた・・・・・・。  「妹の・・・・・・、マミの仇だ。」  彼は呟くようにそう言って、その場にへたりこんだ。  その顔は青ざめて、体は震えている。  自分のした事に恐怖を感じたのだろう。  だが私がここで彼に刺されて死ぬのも当然の報いだ・・・・・・。  私は彼の大切な妹を奪ったのだ・・・・・・。  ここで彼に殺されるのも当然の報いなのだ。  そして、これで私の罪は(ゆる)されるのだ・・・・・・。  「逃げなさい・・・・・・。」  私がそう言うと、驚いた顔で彼は私を見上げた。  力が抜け・・・・・・、膝から崩れ落ちそうになった時・・・・・・、私の背後から女性達の楽しそうな会話が聴こえて来た。  ダメだ・・・・・・。  今、死んではダメだ!  今、私が倒れて死んだなら、殺人犯として彼が捕まってしまう!  私は彼の大切な妹を奪ったのだ!  その上で彼の人生まで奪う訳にはいかないのだ!  私は最期の力を振り絞り踏みとどまった。  そして腹からナイフを抜き取り、女性達の方へ向き直り、私は叫んだ!  「ぶっ殺すぞおっ!」            
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!