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ある通り魔の死
「ぶっ殺すぞおっ!」
俺の後方からその怒鳴り声が聞こえた直後、女性の悲鳴が聞こえてきた。
何事かと思い振り向くと、必死の形相で悲鳴を上げながら路地から飛び出して来た女性二人と、それを追うようにフラフラと覚束無い足取りで男が出て来た。
その男は右手に刃物を携えてブンブン振りながら何事かを喚き散らしている!
「通り魔だーっ!」
誰かがそう叫んだのを合図に、その場にいる全員が悲鳴を上げて逃げ出す。
我先にと他人を突き飛ばして逃げる者。
オープンカフェのテーブルにぶつかり転ぶ者。
それを踏みつけて転び、這いつくばりながらも必死に逃げる者。
パニック映画さながらの地獄絵図が俺の目の前で繰り広げられている。
「殺してやる〜っ!」
通り魔はフラフラと歩きながら、そう叫んで刃物を振り回している。
すでに誰かを刺し、その返り血を浴びていたようで、その腹部は赤く染まっていた!
そこに駆け付けた警官が二名。
腰の拳銃を抜き取り、空に向けて空砲を発砲した後。
「動くな!警察だ!」
そう怒鳴り、通り魔に銃口を向けた!
「凶器を捨てろ!」
引き金に指を掛けて、警官が怒鳴りつけるように言う。
固唾を呑んで見守る俺。
通り魔は立ち止まり、ニヤリと笑いながら自分の首筋・・・・・・頸動脈の位置に刃物を当てた。
「聴けえっ!愚民どもっ!」
通り魔は突然そう怒鳴った!
「落ち着けっ!馬鹿な真似は止せっ!」
警官が怒鳴り返す!しかし通り魔は聞く耳持たずでさらに怒鳴る!
「俺は今から神の国へ行く!そして神に問うのだ!」
違法薬物でも使用して錯乱しているのか?意味不明な事を怒鳴り続けている。
「俺はこれでっ!・・・・・・赦されるのだあっ!」
最期にそう叫んで!・・・・・・通り魔は首筋に当てた刃物を引き下ろした。
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