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ある男の贖罪
私は少女を殺してしまった・・・・・・。
居眠り運転で少女を轢き殺してしまった・・・・・・。
連勤が続き疲労が貯まっていたのだから、仮眠してから家に帰るべきだったのに、早く家に帰ってゆっくり寝たいと思う気持ちの方が強かった・・・・・・。
気付いた時は病院のベッドの上だった・・・・・・。
弁護士には止められたが、少女の葬式に行った・・・・・・。
泣きながら土下座して赦しを乞う・・・・・・。
少女の両親に罵倒され、物を投げ付けられ、親族に斎場の外へ放り出された。
「お前が何で生きてんだよっ!死ねよっ!」
少女の兄と思しき少年が、そう叫んで私を殴る。
私は死にたかった・・・・・・。
刑務所でも手紙を書き続けたが、全て封も切られずに返って来た・・・・・・。
私の罪は法律では償えても、あの家族には一生償えない・・・・・・。
刑務所を出てから職に付き、給料の半分を毎月振り込んでいる。
今日も振り込みを終えて銀行を出た。
細い路地に入って暫くして。
「おいっ!」
背後から呼び止められて振り向くと、鬼の形相で私を睨む少年が立っていた。
この眼を覚えている・・・・・・。
忘れられるはずも無い・・・・・・、あの少女の兄と思しき少年だった。
彼はいきなり私にぶつかって来た!
それと同時に腹部に鈍い痛みを感じた。
見るとナイフが腹に刺さっていた・・・・・・。
「妹の・・・・・・、マミの仇だ。」
彼は呟くようにそう言って、その場にへたりこんだ。
その顔は青ざめて、体は震えている。
自分のした事に恐怖を感じたのだろう。
だが私がここで彼に刺されて死ぬのも当然の報いだ・・・・・・。
私は彼の大切な妹を奪ったのだ・・・・・・。
ここで彼に殺されるのも当然の報いなのだ。
そして、これで私の罪は赦されるのだ・・・・・・。
「逃げなさい・・・・・・。」
私がそう言うと、驚いた顔で彼は私を見上げた。
力が抜け・・・・・・、膝から崩れ落ちそうになった時・・・・・・、私の背後から女性達の楽しそうな会話が聴こえて来た。
ダメだ・・・・・・。
今、死んではダメだ!
今、私が倒れて死んだなら、殺人犯として彼が捕まってしまう!
私は彼の大切な妹を奪ったのだ!
その上で彼の人生まで奪う訳にはいかないのだ!
私は最期の力を振り絞り踏みとどまった。
そして腹からナイフを抜き取り、女性達の方へ向き直り、私は叫んだ!
「ぶっ殺すぞおっ!」
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