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第16話 赤の盗賊団 『地図を探しに』
この円柱都市イラムの東方には『エルフ国』(正式には『世界樹共和国』というらしい)のある大森林が広がっている。
森林はこの近くの森はホッドミーミルの森と呼ばれている。海岸近くは川を隔ててヒーシ森が広がっていてその奥地には『エルフ国』の首都・天上都市があるらしい。
『イラム』の西方には死の平野と呼ばれる平野が広がっていてその北にもヤルンヴィド(鉄の森)と呼ばれるフェンリル狼の住まう森がある。
『エルフ国』の最奥にはメメント森という死の森が広がっており、その奥に火山がある。その麓にあるのが『不死者の国・ラグナグ王国』だ。
この火山の向こうの海へ行こうとして、アイの打ち上げた人工衛星『コロンブス』が、何者かの攻撃を受け撃墜されたらしい・・・。
その向こうには『空の大陸』があったという。空に大陸か・・・伝説の『マゴニア』とかじゃあないだろうな。まさかね・・・。
オレはアイから思念通信で映像とともに送られてきた航空地図を頭の中で見て、この周辺のだいたいの地形を覚えた。
翌朝、アイに優しく起こされたオレだが、そばにはヒルコが水色の豹の姿になって寝ていた。
「おはようございます! ジン様!」
二人がそろって挨拶してくれる。二人にとって『おはよう』というのは、56億7千万ぶりのことだから、よっぽど嬉しいのだろう。
なんだか覇気があるんだよな。
「あ、ジン様! アイ様! ヒルコ様! おはようございまチュ!」
「おはようでございやす!」
ジュニアくんとジロキチが隣の部屋から出てきて挨拶を交わす。
そして、全員で食堂に向かう。
食堂には、オレたちの他にも冒険者とおぼしきものが数組、朝食にありついていた。
中の一人は、大きな剣を携えていた。黒い装束に身をつつみ、ボウガンを足元に置いていた。
かなり強そうだな。なにかのハンターのようだ。
他には、男女のパーティーや男だけのパーティー、他にも獣人のパーティーなどさまざまだった。
夕べの夕食の際にはいなかったので、おそらくはオレ達とは時間が合わなかったのだろう。冒険者は遅くまで仕事をしていることも多いようだ。
「じゃ、ここに座ろうか。」
オレたちは席についた。その時、チラリと黒装束の男と目が合ったような気がしたので、ちょっとおじぎをしておいた。
黒装束の男もおじぎを返してきた。見た目より怖くはないのかもしれない。
朝食もラク女将特製の料理であった。
この『湖畔亭』伝統の朝食には、平たいパン(khobz、ホブス)、チーズ、ヨーグルト、塩漬けのオリーブ、デブス(ナツメヤシから作る蜜)、ゲーマル(geimar、グガランナ牛の乳から作る生クリーム)、紅茶が出された。
デブスとゲーマルはこの『湖畔亭』のバビロン地方の定番となっているらしい。
「ジン様!これ、美味しいね~♪」
「美味しいですね。マスター。」
「うん。ホントだね! ・・・ところで、ジュニアくんってイラムに来たのは初めてなのかな?」
「そうですね。『楼蘭』の街から出たのは、実は初めてなんです!」
「そうですねぇ。ジュニア坊っちゃんはカシム様が過保護なくらいでございやしたね。これからいろいろ経験を積むとよいでござるな。」
「そうだね。オレもいろいろな街を見て回りたい。本屋とかあるかな?」
食事を終えたオレたちは、少し休憩をしてから、地図を探しに街へ繰り出すこととなった。
ラク女将に聞いたところ、地図屋とか本屋と呼べる店はないようだったが『フェアリーブック』という雑貨屋には何でもおいてあるとのことだった。
オレたちは『フェアリーブック』のイラム支店を訪れることにした。
『フェアリーブック』は『カーズ法国』の首都である『アーカム・シティ』に本拠を構える雑貨屋で、妖精種族が経営している。
ここイラムにも支店があり、見たところ繁盛している様子だ。
2階建てのなんともファンタジー感あふれる外観のお店に、いろいろな種族のものたちが出入りしていた。
「あら? いらっしゃいませ! お客さん、そちらは月氏かい?」
店の奥から店員とおぼしき者が声をかけてきた。キリギリスのような姿で頭から4本の耳のようなものが伸びていて、身体の色はカラフル、手には縦笛のようなものを持っていた。
「えっと・・・この店の者かな? オレはジン。こっちはカシム・ジュニア! 月氏の商人『アリノママ』の代表だ。以後、よろしくな。」
「へぇ・・・カシムって・・・あれ? 親父さんはどうしたんだい?」
「父さんを知っているの? 父さんは『赤の盗賊団』に襲われて・・・殺されたんだ・・・。」
「それは本当かい!? 気の毒なことだな。『赤の盗賊団』か・・・。サタン・クロースってヤツが頭の大型盗賊団らしいな。おいらも警戒するようにしてるよ。
おいらはこの『フェアリーブック』イラム店の店長、ココペリだ。見て分かる通りエルフさ! カシムさんには贔屓にしてもらっていたよ・・・。今後ともご贔屓にしてくれな。」
「うん。こちらこそ、よろしく! ココペリさん!」
「ココペリ。よろしくな! ところで、エルフってみんなそういう姿なの?」
「ん? ああ、種族によりけりだね。おいらは、ネイチャメリカの種族さ。」
「ネイチャメリカ!? その名前も興味深いなぁ。ところで、このあたりの地図はあるかい?」
「はい。ございます。こちらです。『情報屋ヤプー』から仕入れた『イラム』周辺の地図です。」
「じゃあ、1枚もらおうか。」
「へい。まいどあり。銀貨1枚です。」
えーと、銀貨1枚は・・・1万円くらいか。ああ、けっこうするんだな。
店の従業員のカチーナと呼ばれる精霊の種族の者が地図を手渡してくれた。
オレ達は礼を言って店を出た。
※円柱都市イラムの周辺地図
さっそく、地図を見てみる。
地形はあらかじめ人工衛星『コロンブス』で撮影したものとほぼ同じだ。森林がまわりに広がっている。
だが、国の情報や都市の情報がここには描かれている。
衛星からの航空地図と合わせてみる。
この『円柱都市イラム』の東方の大森林に『エルフ国』があり、最奥には死の森が広がっており、さらに奥にある火山の麓にあるのが『不死者の国・ラグナグ王国』がある。
また、南方の海には『海王国』があり、中央はサファラ砂漠が広がっている。東方の海岸に『小国コルヌアイユ』という国があり、リンヌンラタ(天の河)という川のさらに西方に、
『南北・帝国』がある。そして、イラム東方の平野部に『馬国』があり、そのさらに向こうに『ヴァン国』という国がある。
オレの自宅『霧越楼閣』があるのは・・・、サファラ砂漠の真ん中あたりだろう。
あれ? 『霧越楼閣』の南方・砂漠の真ん中に、『無名都市』という街があるな・・・。
(アイ! 『霧越楼閣』の南に街があるみたいだ。そこは調べてた?)
オレは思念通信で聞いてみた。
(お答えします。廃墟のような街の跡地が発見されております。ただし、何者か生物が住み着いている可能性は高いと推測されます。)
(なるほど。今度、行って調べてみないといけないな。)
(はい。仰せのままに。)
「さて、ジュニアくん。『赤の盗賊団』の情報を聞かないといけないな。どうするか。」
「そうですねぇ。困りました。手段がありません。」
「マスター。さきほどの店の店主・ココペリが言っていた『情報屋ヤプー』という言葉から、『情報』を生業にしている者がいると推測します。」
「おお!なるほど! アイ!でかした!」
「いえ。もったいなきお言葉・・・。」
またしても、アイが照れたように言った。
「ジン様。拙者が聞いたところによると、情報屋は大きく2つあって、『情報屋ヤプー』と『情報屋ガーゴイル』があるそうでございやす。調べ物ならこの2つでやすな。」
「へぇ・・・『ヤプー』に『ガーゴイル』か・・・。ふむ。地図を調べていた『ヤプー』にしようかな。『馬国』に彼らの本拠もあるようだし。」
「ほぉ。さすがはジン様ですね。先のことも考えているでございやすな。」
「あはは・・・。たまたまだよ。」
オレたちは情報屋を訪ねることにした。
『ヤプー』って・・・ガリバー旅行記に出てきた種族のことかな・・・。ガーゴイルっていうのは、アレだよな・・・。空飛ぶ悪魔だったっけ。
ふーむ。まだまだこの世界はわからないことだらけだわ。
情報屋は今後も付き合いを深めておいたほうが良さそうだとオレは思いながら歩いていた・・・。
~続く~
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