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第2話 プロローグ 『5千年後の世界』
扉を開けて、入った部屋はなんというか、大草原だった!
「え!? 外?」
と、オレは一瞬、思ったが、どうやら全面がスクリーンになっていて、草原の景色を360度映しているプラネタリウムのような部屋だった。
真ん中に、テーブルと椅子があり、そこに座れという感じで、アイという女性の方が声をかけてきた。
「どうぞ、お座りくださいませ。マスター。」
「お……おう……。」
おとなしく促されたとおり、座った。
アイもメイド姿のヒルコも、座ることなく、オレの前で立って待機していた。
「カフェオレ……がお好きでしたね。紅茶や、オレンジジュースなどもありますが、いかがなさいますか?」
「ああ。よく知ってるな。カフェオレが良いかな。」
「はい。ドリップしたコーヒーが50%、ミルクが50%、砂糖なしでしたね。」
「え!? そんな細かいオレの好みまで知ってるの?」
「もちろんでございます。」
アイが食い気味に答えた。
あれ? ヒルコというメイドが用意するのかと思ったけど、まったく動こうとしない。
そんなふうに思っていたら、さっき、オレたちが入ってきた扉(これもスクリーンになっていて入った後は草原にしか見えなかったんだけど)が開いて、誰か入ってきた。
ん? セーラー服を着た女子高生姿の女性が、お盆にコーヒーセットを載せて、それをうやうやしく持ちながら入ってきたんだ。
まあ、なんというか可愛い感じがする。そこらへんのアイドル顔負けに可愛い。
あれ、二人いる!?
双子のようだな。違いはその制服か、赤と青。あ、髪の色も赤の制服姿の娘が赤い髪でロング。青の制服姿の娘が、青色の髪でロングか。
顔はそっくりだ。顔では見分けつかないな。
そんなこと考えていると、その二人がオレのいるテーブルにやってきて、コーヒーを注いでいく。
しっかり、ドリップしたコーヒーが50%、ミルクが50%になってるな。
「申し遅れた。ワタシはイシカであるぞ。よろしくだ。ジン。」
「抜け駆けです。ワタシはホノリなのだぞ。よろしく。ジン。」
二人がそう名乗った。
「よろしく。イシカにホノリ。」
と、オレが答えたその後、すかさず、アイがこう言った。
「イシカ!ホノリ! マスターに対して恐れ多い! 『様』をつけるか、ご主人様、またはマスターとお呼びしなさい!!」
「あ、いけない。ジン様。いつもお世話になってる。ありがと。眼を覚ましてくれて嬉しい。カフェオレ、飲んでくれ。」
「ごめんだ。ジン様。感謝しかないのだ。嬉しいねぇ。カフェオレ、飲みな飲みな。」
僕はそのまま、素直にカフェオレを飲んだ。
「美味い!! これこれ。この味……うわぁ、マジで生き返ったって実感するなぁ。」
で、ちょっと落ち着いたオレはこう聞いた。
「で、ここ異世界なんでしょ? オレって転生したってこと? えーっと、どんなチート能力がもらえるの?」
「マスター、誤解なさっております。ここはマスターがお生まれになった世界でございます。」
「え? どういうこと?」
ここで、アイがこう語ったことに、オレは少なからず驚いた。
「マスターは、永き眠りについておられたのです。いわゆる人工冬眠という技術によって。そして、さきほどようやく目覚められたのです。」
「え? オレ、異世界転生じゃないの?」
「はい。マスターは、トラックに轢かれ亡くなってしまい、ワタクシが人工冬眠によってその肉体を保存・管理させて頂いていました。」
「え!? 君が?」
「はい。わたくしの名は、AI・淡島(エーアイ・AWASIMA)、マスターによって作られた人工知能でございます。
この姿は仮初の肉体(ボディ)で、このカラダにワタクシのデータをコピーして動いています。」
「そして、僕はヒルコです。ジン様に育てられた粘菌です。アイ様によって、僕は進化した存在となったのです。」
そう、メイド姿の女性は名乗り、その後、身体がぐにゃりと曲がり、ゲームの世界のスライムのような姿になり、その後、水色の豹のような姿になった。
オレはびっくりしてしまった。粘菌!? あの?オレの飼っていたあの粘菌のヒルコが喋ってる!?
「そして、イシカはコアであるぞ!」
「そうそう、ホノリは!コアなのだぞ!」
双子が同時に喋る。コア?
どういうこと?
「こちらの二人はマスターが創造された美しい機械に、コアを入れ、機械生命体として生まれ変わった『アラハバキ』のコアたちです。」
「アラハバキ!? え? オレが作ったフィギュアじゃん! コアってどういうこと?」
「文字通り、心臓部ということです。アラハバキは最大全長100mの超巨大ロボットです。」
「ええええーーーーー! それ、オレがなんか中2の頃考えてた、設定じゃん!!」
「そのとおりです。わたくしがマスターの偉大なる知恵のつまった空間、『セラエノ図書館』で見つけた神秘を解き明かし再現しました。」
「えーーーと……その『セラエノ図書館』って、あのクトゥルフ神話に出てくる図書館?」
「さすがでございます! マスター! そのとおりでございます。
勝手ながら、あまりにも素晴らしい知恵の集合部屋であったご主人様の部屋を、わたくし達はそう呼ばせていただいております。」
「うわぁ、なんだか自分の黒歴史を過大評価されているぅぅ!!!」
「でも、でも、おかげで、イシカも!」
「その、その、おかげで、ホノリも!」
「今、ここに存在していられるんだ。ジン様のおかげ。感謝。感謝。雨あられ!」
「そうそう、ここに生きているのだ。イシカもホノリも!ありがてえ幸せ。絶好調!」
双子がそれぞれそう叫ぶ。まあ、なんか二人の言葉づかいはちょっと変だが、オレにすごく感謝している様子だ。
「ま……まあ、感謝されていることだけは、ものすごーく伝わったよ。」
「マスターは、この世界で5千年、眠っておられたのです。そして、今、やっとお目覚めになって頂けたのです。わたくしどもの創造主様。」
「ん……!? 5千年!!??」
「はい。正確には、この世界で5千年、次元の狭間で彷徨っていた相対的時間概念にすると56億7千万年後でございます。」
「はい!? もはや、オレの頭で理解不能な言葉が……。ま、いいや。とりあえず、えらく長くオレは眠っていたわけだ。」
「そのとおりです。わたくし達がどれほど、マスターが目覚められるのを待ち望んできたか……。ジン様……。」
「おはようございます!!」
その場のみんなが、声をそろえてオレにおはようの挨拶をしてきた。
なんだか……面映いというか……。
「お……おう……。おはよう。」
「まあ、ということは、もう、あれか。オレの知ってる人はみんな、もういないんだな……。」
「はい。マスターの身近な方では、ご両親である葦亜・麗斗(れいと)教授、葦亜・彗美(すいみ)教授、それに妹御の佐馬江端万恵(さまえ・はまえ)様、その夫君であられる佐馬江瑠太郎(さまえ・るうたろう)様、皆様、天国に旅立たれました。」
「そっか……って、え!? 夫君ってことは……!? ハマエとるーたろう、結婚したのか!? それは……マジで嬉しい……。」
オレは懐かしさと、嬉しさとちょっぴり寂しさと切なさで、涙が溢れてきたのだった。
「じゃあ、現在は外の世界ってどうなってるんだ?」
「こちらに来るのだ。」
「こっちに来やがれ。」
そう言って、イシカとホノリがオレの手をとり、さっきの扉とは別の方向に向かってオレの手を引いて連れて行く。
「イシカ!! ホノリ!!」
そう、アイが叫んだ時と同時に、イシカとホノリが扉を開けた。
扉の向こうは、地平線まで砂、砂、砂だった。どういうことだ。地球はどうなったんだ?
オレは思わず、そこに飛び出してしまった。
「え!?」
なんと、扉の向こうは、はるか高い上空だったのだ。オレはそのまま、パラシュートをつけずに飛び出したスカイダイバーのように、地上へ落下していくのだった。
「マスターーーーーーーーーッ!!!!」
アイの叫ぶ声が遙か上空から聞こえてくるのだった……。
あ、オレ……早くも死んだわ……。
~続く~
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