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第206話 恐竜の街へ『ディノエルフ軍・出陣』
『エルフ国』東北に広がる大森林、『メメント森』……、その西の端、ケルラウグ川沿いの川岸に『ジュラシック・シティ』は位置していた。
それはエルフの種族のひとつ、ディノエルフ種族の棲む街だった……が、今や吸血鬼の巣窟と化している……。
その支配者は暴君と恐れられる王、タイラント・ティラノ帝だ。
ディノエルフの中でも凶暴種と言われる存在であり、『十の災い』と呼ばれる十尾のひとりで、『蝗を放つ』を象徴する。
『蝗』とは飛蝗(バッタ)を意味し、その大群を意味する。
かつての世界でも聖書に飛蝗の被害が悪魔として記載されていたほど恐れられた災害なのだ。
そのティラノ帝の王座の目の前に、今、一人のディノエルフ種の女性が血を流して倒れた。
「母・アグリッピナは余の行いを諌めようとした……。よって、処刑した!」
ティラノ帝が声を発した。
集まった『十の災い』たちは、みな静まり返っている。
かの暴君の傍らに控えているのは、『不死国』の女性の吸血鬼ブルーハとペナンガランだ。
彼女たちは『不死国』の第五軍・空軍長であるピグチェン竜公の配下である。
その女の魅力でティラノ君主をたらしこむはずだったのだが、あっさりとティラノが寝返り、吸血鬼のチカラを得たのだった。
「ティラノ様ぁ……。『人ごろし城』の青ひげ男爵がやられちゃったようですわ?」
鳥の羽根を持つ女性吸血鬼ブルーハがそう告げる。
「そうなんですぅ! だ・か・ら……、『チチェン・イッツァ』を早く攻めちゃいたいのですよねぇ……。」
美しい若い女性吸血鬼ペナンガランがささやく……。
「ふむ……。だが、先刻、出陣させた『十の災い』のスピノサウルス、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、アクロカントサウルスのヤツラもやられたようだ……。」
「なんと!? あやつらが!?」
「これはこれは……! 我ら『十の災い』の者が情けない……。」
「……で、あるか……。」
「ティラノ様! 次は我に行かせてください!」
「いいや! 俺が行く! このアロサウルスがな!」
他の『十の災い』モササウルス、タルボサウルス、シアッツ、カルノタウルス、アロサウルスたちが騒ぎ出した。
「お待ちくだされ! そなたらだけでは心もとない……。我ら『ディノエルフ種・賢種』が『翼竜種』たちを指揮し、強力致すとしましょう!」
『ディノエルフ種・賢種』の長、トロオドン・ステノニコサウルスがそう進言した。
彼ら賢種は、頭が良い恐竜種の代表的存在なのだ。
トロオドンを長として、ヴェロキラプトル、レエリナサウラ、サウロルニトイデス、ドロマエオサウルスらが属している。
「では、私たち『翼竜種』も出張るとしましょうか!?」
「きっひっひ! 空から『チチェン・イッツァ』を攻め落としてみせましょう!」
「ぐふぐふ……。食いつくしてやるぜ!」
『翼竜種』のダイノバード、プテラノドン、ソルデス、ランフォリンクス、ケツァルコアトロスたちが大いに歓喜する。
かつて古代世界の大空を支配した種族の末裔たちである。
「ふふふ……。ティラノ様ぁ。我が『不死国』の第五軍・空軍長であるピグチェン竜公も動いていらっしゃるわ!」
「そうそう! それに『ウシュマル』には第三軍のエリザベート様がすでに侵攻されていますわ!」
二人の女性吸血鬼が口々に言う。
「……では! 余の母の血肉をみなで喰らうが良い! 前夜祭だ!」
「「おおぉおおおおーーーっ!! 」」
暴君ティラノの掛け声で、みなが一気に呼応し、目の前でさきほど殺されたティラノ帝の母の身体をむさぼり尽くすのであった……。
すでに血の渇望と欲求で、正気を失っているかのようだ。
****
『ジュラシック・シティ』の北方、『トゥオネラ』の街ー。
この街のトゥオニ王はすでに『不死国』第五葷・竜公ピグチェンの手によって殺され、街は滅ぼされていた。
街中に住民の白鳥エルフの羽根が散々に飛び散っていた。
「ピグチェン様! 『トゥオネラ』は制圧いたしました! 最後まで抵抗していた白鳥エルフどもを操る魔女レダもさきほど始末いたしました!」
人間の顔をした巨大コウモリ・ウプイリが報告をする。
「そうか……。我が『不死国』第五葷・空軍の進行を妨げるものは何者でもできまい!」
「竜公様! 次は南下して『ジュラシック・シティ』へ入り、その後、『チチェン・イッツァ』を攻め滅ぼしましょうぞ!」
「ふむ。シチシガよ。手はずは整っておるということだな?」
「はい……。すでに我が第五葷のブルーハ、ペナンガランが先に現地入りしてございます。」
「なるほど。あやつらの落とせぬ男と街はない……ということだな?」
「そのとおりでございますな。」
「「うわーっはっはっはっは……! 」」
ワシミミズクの吸血鬼シチシガとピグチェン竜公が大いに笑い声を上げた。
吸血妖怪クイと、猿に似た吸血コウモリ・ラングスウィルは顔を見合わせ、何のことで笑っているのかさっぱりわからないといった様子でした。
第五葷はピグチェン竜公の命令で、迅速に動く空の軍隊であるが、頭はそんなによろしくないようで……。
****
「……といった様子ですね。」
アイがたった今、『ジュラシック・シティ』周辺の情勢を探った結果の報告をしたところだ。
「むぅ……。すごい索敵能力だな……。アイ殿のおかげで、敵の行動が丸裸であるな?」
「まったくそのとおり! 『法国』の防衛システムより上じゃあないか……? まったくアイ殿には恐れ入ったぞ。」
「まったく……。ジンさんのお仲間はとんでもないわね……。」
「まあまあ……。とにかく『不死国』の第五葷が背後から援軍に来ていることと、『ジュラシック・シティ』の恐竜連中もこちらを目指して来ているということはわかったので、どうするかってことだね?」
オレは話の本筋へと戻した。
「ああ。そうだったな。その空から来る『翼竜種』たちがやっかいであるか……。」
「空から来る敵は我が片付けましょう。」
そう言って進言してきたのは、コタンコロだった。
「ふむ……。コタンコロお一人でおまかせするのも忍びない。我ら『法国』の聖女騎士アテナ様と使徒のパーティ『ミネルヴァ・騎士団(ナイツ)』も参戦いたしましょう!」
「それは心強いな。じゃあ、空はコタンコロ! 頼んだぞ! アテナさん! おまかせしますね。」
「じゃあ、陸から来る恐竜兵『ディノ・ドラグーン』たちは残る我ら『ヴァンパイア・ハンターズ』と、ジン殿……、それと、あの『銅像群』たちで迎え撃つというわけだな?」
「ええ……。そうなりますね。ただ、背後から来る『不死国』の第五葷にそなえて、誰かを迎撃に待機させておきましょう!」
「それは、私たちが行きましょう。」
サルガタナスさんだ。
「それは助かります! またしても、防衛の激務ですけど、大丈夫ですか?」
「ふふふ……。大丈夫かどうかは、もうおわかりじゃあないです? ジンさん?」
(マスター! このサルガタナスさんは、おそらく……、まだまだチカラを隠していますわ。問題ないでしょう……。)
(なるほどな。わかった。)
「そうですね。おまかせしますよ。信頼してます。サルガタナスさん?」
オレもわかってますよぉ~……っていう顔をして返事しておいた。
まかせられるなら、まかせてしまえばいい。
すべてを一人で背負う必要はない。
あの時も……。
もう少し、自分のチカラを見極めていれば、川を渡る……なんていう選択肢を取らなかったかもしれない……。
オレとサルガタナスさんはお互い、少し見つめ合い、ニコリと微笑みあったのだったー。
~続く~
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