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第210話 恐竜の街へ『決意』
『エルフ国』のリスのエルフ種族、ラタトスクの少年が息も絶え絶えになっている……。
よほど、ディノエルフ種族の者たちにいたぶられたらしい。
だが、アイがその超ナノテクマシンの医療モードで怪我を治療し、栄養を直接点滴でもするかのようにラタトスクの少年に打ち込んだところ、たちどころに顔色が良くなった。
「あれ? なんだか、元気になったよ! おいら! お姉さん! ありがとう!」
「いえいえ。どういたしまして。ちゃあんとお礼が言える子なのね?」
「家はどこなんだい?」
「そ……、それが……、おいらの村はヤツラに襲われて滅んでしまったんだ……。村人も散り散りになって逃げていったんだけど……。おいらの母ちゃんは……。」
少年はそこまで言って、その先は言いよどんでしまった……。
(マスター! 例の『テオティワカン砦』で遭遇したスタンピードで、リスの魔物が逃げてきていました。あれはラタトスク種族の者たちだったのでしょう……。)
(なるほど……。じゃあ、やはり、無我夢中で散り散りになったんだな……。)
そうか……。
おそらくは、やられてしまったんだろう……。
これ以上聞くのはやめておこう。
「そうか……。大変だったね。ところで、この街を治めている一番偉い人はだれだかわかるかい?」
「うん。知ってるよ! タイラント・ティラノっていう暴君だよ。」
「タイラント・ティラノか……。そいつがどこにいるか知ってるかい?」
「あそこの『殺戮ゲームの館』と呼ばれている館にあいつはいるよ!」
「……『殺戮ゲームの館』か……。なんともふざけた名前の館だな。」
「マスター! 超ナノテクマシンの偵察監視モードで、館内を映しましょうか?」
「アイ! そんなこともできるのか!? やってくれ!」
「僕が周りを見張ってるねぇ?」
「イシカも偵察モードであるゾ!」
「ホノリも監視するのだ!」
「……あたしはお休みモードで……。」
「はぁ!?」
アイのひと睨みでデモ子がブルッと震えて、『気をつけ』の体制になった。
アイが手をかざすと、目の前の空中に、映像が立体的に映し出された。
豪華な館が見える。
あれがタイラント・ティラノの館『殺戮ゲームの館』か……。
たくさんのディノエルフたちが集っている。
あちこちで、死体が転がっている。
おそらくは近隣の町や村から集められたエルフたちだろう。
「なんてひどいことを……。」
「マスター。おそらく、吸血鬼になる前からこの種族の者たちは凶暴だったと聞いています。そして、吸血鬼になったことで、よりいっそう欲望のタガが外れてしまったのでしょう……。」
「そうか……。凶暴種……、なんとも言えないヤツラだな……。」
「そうですね。個体差があるので、種族とひとまとめにするのはお勧めはしませんが、この凶暴種たちだけは同じ穴のムジナでしょう……。」
アイが冷静に判断した上で、そう言うのだ。
間違いないだろうな。
街のいたるところに、串刺しにされたエルフたちが血を流して死んでいるのを見かけた。
あらゆる拷問の末、なぶり殺したのだろう様子が伺える。
同じディノエルフ種でも、関係なく処刑しているのもあった。
アイの見立てではおとなしい草食種だということだ……。
ティラノ帝が喋っているのが聞こえてきた。
「妻オクタウィアも不倫していたので処刑したゆえ、新しき妻アクテを迎えるぞ! はっはっは!」
「ティラノ様……。このセネカの目の黒いうちは、あまりにも暴虐なる振る舞いはお控えくだされ。このままではディノエルフ種は孤立してしまいますぞ?」
「ふん! こうるさいじじいめ! 魔牛ストーンカにやられたというあのムカデじじいのように八つ裂きにしてくれるわ!」
「おやめくだされ! どかこのじいの顔に免じて……!」
「ええいっ! うるさいっ!」
タイラント・ティラノが、その巨大な口を大きく開き、魔力を放出した。
『草原に響きわたる黒き同胞たちの哀歌、マネツグミたちは楽しく、戻らぬ日々を歌う。ツタの生い茂る草葉の陰の墳丘に、あの優しかった主人は眠る…。冷たい、冷たい土の中に!』
それは、かの『チュドー・ユドー』も使用したレベル5の即死呪文『主人は冷たい土の中に』だったのだ!
闇の恐ろしいまでの『死』の呪詛が塊となって、ティラノの恩師でもあるセネカを包み込んだ。
「ぐぎゃぁ……。」
セネカはその場で息絶え、抜け殻となって倒れたのだった。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
「きゃっほっほっほーーっ!」
歓声を上げるディノエルフたち……。
まるで、それはオレのいた時代に映画やアニメで見た悪魔のサバトのようだった……。
(なんて……光景だよ……。)
(ええ。マスターが気になさるのも無理もありません。吸血鬼になるというのは、人の心を失くすのかもしれませんね……。もっとも……、このディノエルフ種族は、もとから人間性はあまり感じられないと推測します。)
(それに……、あの『発言』だけは許せない……。)
(マスター……。かの暴君は、爺やのことを侮辱していました……。唾棄すべき相手と判断いたします。)
(アイもそう思うか……?)
(イエス! マスター。ワタクシの心はマスターの御心とともに存在しております!)
(わかった……。オレもヤツラには吐き気がするほどの嫌悪感を抱いたよ……。)
(マスターの思う通りにいたしましょう……。)
(なによりも……、ムカデ爺やのことを嘲り笑ったのは許せない……。)
(マスターの御心のままに……。)
オレはヤツラのいるであろう館の方を見たのち、くるりと仲間のほうを振り返った。
「ヒルコ。イシカ。ホノリ。デモ子……。そして、アイ。オレはこの街を滅ぼすことに決めたよ。」
「はい! ジン様の言うことに賛成だよー!」
「イシカはジン様に従うであるゾ!」
「ホノリはジン様についていくのだ!」
「あたしは……。もうジン様にとことん、ついていきますって!」
「ワタクシはもちろん、いつもお傍にいますよ?」
みんな、オレの重い決断に付き従ってくれる。
「そして……、歴史は繰り返す! 恐竜は滅びる道を選んだのだ。」
オレは、超ナノテクマシンに指示を出した。
この広大な世界の空の果ての宇宙の先に、重力波動を凝集したレーザーを照射したのだ。
超ナノテクマシンのすべてを集中させ、超高エネルギーを生み出し、人工衛星『ヴァスコ・ダ・ガマ』を経由し、レーザー波動を宇宙に向けて照射したというわけだ。
「マスター。距離1億5000万km……、この世界での単位で9万3750ドラゴンボイスの距離にある小惑星帯から、直径を10kmの1つの小惑星隕石を、衝突角度60度から45度、衝突スピードを秒速12km(時速4万3200km)から秒速20キロ(時速7万2000キロ)に変えて組み合わせ、シミュレーションを行います。」
「ああ。任せる。あとは、小惑星の名前だが……。」
「何と名付けましょうか?」
「チクシュルーブ……とでもしておこうか……?」
「ステキな名前です。マスター。マヤ語で『悪魔の尻尾』という意味ですね。」
「そうなんだ。かつて6600万年前……いや、6600万年と5000年前か、57億3600万年前か……、ユカタン半島に落ちた隕石とともに滅亡した種族と同様に、滅ぶがいい……。」
「イシカ! ホノリ! この街にほかに周辺の村から連れられてきた者たちがいたら救出してくれ!」
「了解であるゾ!」
「了解なのだ!」
「ヒルコ! ラタトスクの少年を安全な場所まで避難させてくれ!」
「わかったのだよー!」
この時、この世界のこの星に向かって、小惑星が急激に向きを変え、近づいて来ていたのだった。
しかも、ぐんぐん加速しながら……。
~続く~
©主人は冷たい土の中に (曲/フォスター 詞/フォスター)
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