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第212話 恐竜の街へ『滅亡の時』
光の束が『ジュラシック・シティ』の『ケルラウグ川』沿いに広がる沼地や『メメント森』に降り注ぎ、温かい『ケルラウグ川』の水は生命で溢れている。
この『残された世界』の住民であるディノエルフ種や巨大な魔物たちが、鳴き声や羽音を響かせて生命を謳歌しているこの大森林に、ある小惑星が、時速およそ6万4000キロの速さで地球に向かっていた。
そして時にして一瞬の時間、太陽よりもはるかに大きくてまぶしい火の玉が空を横切る。その一瞬の後、小惑星は推定でTNT火薬100兆トン分を超える規模の爆発を起こしてこの街『ジュラシック・シティ』に激突したのだ。
衝突の衝撃は地下数ラケシスマイル(およそ数キロ)に達し、直径100ラケシスマイル(およそ160キロ)のクレーターを作り出し、大量の岩石さえ蒸発させた。
このすさまじい衝突により、連鎖的に破壊的な規模の大災害が引き起こされ、この街にいた生物のおよそ99%が消滅し、ディノエルフ種もそのほとんどが消滅したのだった……。
衝突の9秒後、それを観察できる距離にいた者は、熱放射によってあっという間に焼かれ、木や草は自然発火し、周辺にいるすべての生物は一瞬にして全身にひどいやけどを負い、死亡した。
火の後に衝突の衝撃は、リヒタースケールで少なくともマグニチュード10.1の巨大地震は、人類がかつて経験したことのないほど強大なものだったはずだ。
だが、その破壊の振動はこの半径100ラケシスマイル(の範囲の境界……『K-Pg境界』の範囲内ですべて跳ね返され逆にその内部を指数関数的に壊滅へと追いやった。
アイ先生の解説では、「これほどの規模の地震は、たとえて言うなら、過去160年間に世界で起きたすべての地震が同時に発生するようなものです」とかつて米コロラド州立大学の地震学者で元アメリカ地震学会会長のリック・アスター氏が言っていた通りの規模の衝撃だという。
その衝撃から8分が過ぎると、地殻から噴出物が流れ出し、焼けた大地を熱い砂と灰で覆い尽くしていく……。
衝突点に近い場所では、地面は厚さ0.5~0.8ラケシスマイル(およそ数百〜千メートル)を超える岩屑の下に埋まってしまっていた。
およそ45分後、一陣の風がおよそ時速965キロで一帯を吹き抜け、岩屑を撒き散らし、建物や生物、岩石などあらゆる立っているものをなぎ倒す。
それと同時に、低空飛行のジェット機が放つ轟音のような、105デシベルの爆発音がやってくる。
超ナノテクマシンを数千京個ほどでエネルギーシールドを張った『K-Pg境界』内では、空は暗さを増し、衝突によって巻き上げられた岩屑が流星のように地面に降り注ぎ、この世の終わりのような光景が繰り広げられていた……。
このとき降り注いだ岩屑は、通常の流星や隕石と同じようには見えなかった。
通常の隕石は速い速度で落下しながら燃え上がり、非常に熱くなる。だが、今回の岩屑は低高度から大気圏に再突入し、ゆっくりとした速度で、赤外線を放射しながら落ちて来るのだ。
赤っぽく光って落ちて来ていたその岩屑の赤い光が消えた後には、この範囲内をめぐる灰と岩屑が日の光を遮り、空は暗くなったのだ。
最初の数刻は、真っ暗闇に近い状態だった。
しかしその後すぐに空は明るくなっていく。
砂塵の雲によって光が遮られ、その煤や灰が大気中から洗い流すように、酸性の泥のような雨が地面に降り注いだ。
大規模な火事は大量の毒素を生み出し、生態系を保護する大気圏のオゾン層を一時的に破壊した。
さらには、衝撃それ自体による「カーボンフットプリント(炭素排出量)」の影響もある。
米月惑星研究所の地質学者、デヴィッド・クリング氏によると、恐竜絶滅の際の小惑星の衝突により、およそ10兆トンの二酸化炭素、1000億トンの一酸化炭素、さらには1000億トンのメタンが一気に放出されたという。
だが、今回はそれらすべてがこの狭い『K-Pg境界』内に留められたのだ……。
その結果、小惑星の衝突直後、この『K-Pg境界』内は核の冬に続く激しい温暖化という、強烈な破滅的な環境に見舞われたのだ。
そして、このオレが『チクシュルーブ』と名付けた小惑星の衝突でできたクレーターは『チクシュルーブ・クレーター』(マヤ語で『悪魔の尻尾』という意味)と呼ばれることとなるのだった。
****
「おおぉ……。とんでもないな……。恐ろしいまでの破壊力……。」
「ええ……。ヘルシングさん……。あれはジン殿の魔法でしょうか……?」
「ジョナサン……。あたし、少しジン殿が恐ろしいわ……。」
「彼は味方にすれば頼もしいが敵に回せば恐ろしい男だ。吸血鬼か、それとも味方か。私たちが攻撃すれば、敵になる。私たちがなんの恐れも抱かず、微笑してみせれば味方になる……そういうものだ。彼が我らとともに吸血鬼退治に助力を誓ったことは百万の味方を得た程に心強い……。」
「うむ。ファット・フルモス大公の申す通りじゃ。吾輩たちはは百万の味方を得たのじゃ。」
「ああ。オレもそう思う。ミナ。ジン殿はこの世界の民にはない『黄金の精神』を持っているとオレは確信しているよ。」
「そうね。……それに、吸血鬼と化したディノエルフ種は、滅ぼして然りだわ。」
ヘルシングさんたちは、ディノエルフ種『十の災い』たちとの戦いの手を止め、この衝撃の光景に目を奪われていたのだった……。
****
対峙していたディノエルフ種の『十の災い』軍のほうも、戦いの手を止め、思わずこの光景に見入ってしまっていた。
なにせ、自分たちの街が一瞬の間に滅亡してしまったのだ。
当然といえば当然である。
「モササウルス……。巻き込まれたか……。」
シアッツがつぶやく。
モササウルスは『十の災い』の中でも『川の水を血に変える』を象徴する水棲の種族だった。
ゆえに『ケルラウグ川』にその水軍を展開していたのだったが、そこは小惑星の衝突の範囲内に位置していたのだった。
今は『チクシュルーブ・クレーター』と成り果てていた……。
「ど……、どういうことだ!? 何が起こったのだ!?」
「いったい、何が……? これは現実か?」
「吾輩もこんなこと聞いたことがないぞ……?」
アロサウルス、タルボサウルス、カルノタウルスも動揺し、攻撃の手を止めていた。
いったい何が起きたのか理解できていない様子であった。
****
アテナの影『聖なる工芸の九柱神(ミューゼス)』たちもこの光景を見ていた。
「なんと……。恐ろしいまでの破壊力……。」
「すごい……。超魔法ね……。しかし、まったく魔力を感知できなかったわ……。」
「神話レベルの隕石投下呪文『星の界(よ)』……、まさか!?」
「アテナ様! あれはジン殿の魔法……でしょうか!?」
「うむ。ニーケ。ジン殿は私たちが考えている以上のチカラを持っているのやもしれないな……。だが、彼の判断を私は支持するぞ。あやつらディノエルフ種族は、『法』に背いた存在であった……。」
「たしかにの。アテナ様の仰せの通りだ。あの種族を放置するわけにはいかないからな。」
「そうだ。ジン殿がやらなくても、我々『法国』が滅ぼしていたであろうよ……。」
アテナさんたちもまた、この光景に圧倒され、その行く末を見守っていたのであった……。
恐竜がかつて滅亡したように、この日、ディノエルフ種の大半がこの世界から姿を消したのであった―。
~続く~
©「星の界(ほしのよ)」(作詞: 杉谷代水/作曲: チャールズ・コンヴァース)
※参考記事:ナショナルジオグラフィック「小惑星衝突「恐竜絶滅の日」に何が起きたのか」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/061400214/
※参考記事:「驚きの恐竜展を開催、「鳥は生ける恐竜」示す」
※参考記事:「恐竜の絶滅、カギは小惑星の衝突時期」
※参考記事:「恐竜絶滅の「衝突の冬」、仮説を立証か」
※参照画像:Donald Davis/NASA
『敵か、それとも味方か。私が攻撃すれば、敵になる。私がなんの恐れも抱かず、微笑してみせれば味方になる。』アラン(フランス、哲学家)の言葉
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