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第214話 恐竜の街へ『恐竜たちのあがき』
恐竜種……、ディノエルフ種の中でも凶暴な種をそう呼んでいたという……。
かつてのオレのいた世界でも繁栄の絶頂を極めた恐竜……。
彼らは滅んだ。
そして、歴史は繰り返すが如く、今、この世界の恐竜種も滅びの一途をたどっていた。
草食のディノエルフたちは、彼ら自身が滅ぼした。
そして、その皇帝であったタイラント・ティラノもすでにいない……。
また、彼らの繁栄を支えていた賢い者たち『賢種』たちも、隕石の衝突とともに運命を共にしたのだ……。
「放てぇーーっ!!」
ヘルシングさんの掛け声とともに、ボウガンと魔法の弓が放たれた。
キュンキュンキュン……
ドシュ!!
ドシュッ!!
「ぐわぁーーーっ!!」
「ぐぎゃぎゃ……!」
「ぎゃわん!!」
ディノエルフ種たちがどんどん倒れていく……。
オレの『日本の銅像群』たちも負けてはいない。
上杉謙信が!
武田信玄が!
織田信長が!
坂本龍馬が!
クラーク博士が!!
忠犬ハチ公まで……!!
剣やその硬い身体でバリバリ敵を打ち破っていく……。
「なんだ!? なんだ!? この無数のゴーレムはっ!!」
「ぎゃぎゃ……! とてもかなわん!!」
「牙も爪も通らんではないか!?」
ディノエルフたちの鋭い牙や爪も銅像の硬い身体には効かないようだ。
残っている『十の災い』は、シアッツ、カルノタウルス、タルボサウルス、アロサウルスの4匹のディノエルフ種だ。
シアッツは『暗闇で覆う』という災いを象徴している。
そのシアッツが呪文を唱える。
『怒濤さかまくドニェープル大河、風すさびあれくるい、巨(おお)き柳地にねじふせ、黒い河波うねる! 巨(おお)き柳地にねじふせ、黒い河波うねる!』
みるみるうちに周囲の天候が薄暗く、暗闇の世界へと変わっていく。
そう、これはレベル6の空間魔法、敵に不利な天候に変更する呪文『ドニェープルの嵐』だった!
シアッツが吠える!
「我のチカラをとくと見よ!1」
カルノタウルスは『虻を放つ』という災いを、そして、タルボサウルスは『疫病を流行らせる』という災いだ。
「吾輩の『虫の楽隊』を喰らうがいいぃぃーーーーっ!!」
『千草、八千草、乱れ咲きて、花を褥(しとね)の夢おもしろと、おのずからなる虫の声々! チンチロリン チンチロリン! スイッチョ スイッチョ! ガシャガシャ ガシャガシャ! ガシャガシャ ガシャガシャ! 月ある夜半は秋の野面(のもせ)の楽隊おかし!』
「俺様の呪いの魔法『はなさかじじい』も合わせて咲かせてみせようっ!!」
『うらのはたけで、ポチがなく、しょうじきじいさん、ほったれば、おおばん、こばんが、ザクザクザクザク。』
カルノタウルスとタルボサウルスが呪文を唱えた。
周囲に恐ろしいまでの虻(あぶ)が湧いて出て来たのと同時に、地面からなにか得体のしれない疫病の呪いが噴出してくる。
だが、この呪文はヘルシングさんは一度経験している。
「同じ手がこのオレに通じるとでも思ったか!? 魔力増幅呪文『アメイジンググレイス』っ!!」
『Amazing grace!(how sweet the sound) That saved a wretch like me! I once was lost but now I am found,Was blind, but now I see.
驚くべき恵み(なんと甘美な響きよ)!私のように悲惨な者を救って下さった。かつては迷ったが、今は見つけられ、かつては盲目であったが、今は見える。』
ヘルシングさんがその呪いに対し、聖なる魔力を増幅させ、さらに聖なる剣技を放った!
「聖奥義『スターツ・シヴィターティス・ヴァチカーネ』っ!!」
ヘルシングさんが大剣を真上に掲げると、その剣から一筋の光が天を突いた。
そして、上から雨が降るかのように、光の線が無数にこの地に降り注ぎ、逆にディノエルフの戦士たちが、その光の雨に触れた途端に、苦しみだし、バタバタ倒れていく。
無数の虻も瞬時に消し飛び、呪いの疫病は光の前に消滅した。
『十の災い』の『皆殺しにする』を象徴するアロサウルスが果敢にも攻め込んできた。
アロサウルスといえば、ジュラ紀後期のアメリカ、ポルトガルに生息していた獣脚類だ。
体長は9メートル、体重は2トン。
指の先には鋭い20センチの鍵爪がついていて、長い腕は敵や獲物を押さえ込む時に役に立つのだ。
そのアロサウルスが、今、まさにものすごい速度と身のこなしで、銅像の西郷隆盛を犬ごとふっとばしたのだ。
「俺こそがディノエルフの戦士ナンバー1なのだ! 全員、みなごろしだっ!!」
バタバタと倒される銅像たち……。
アロサウルスの進撃の勢いは止まらない!
どんどん攻め込まれる銅像群たち……。
これはまずいんじゃあないのか?
と、思ったら、あれ!?
なんと、そこへ隠れて伏せていた『維新の門像』の兵士たち、『二本松少年隊像』の少年兵士像たちが飛び出してきてアロサウルスの進撃をくい止めたのだ!
さらに、そこへ待ち構えていたかのようにアロサウルスの身体に一太刀浴びせたのは、『島津義弘』だ!
たしか、島津義弘像は鹿児島県日置市にあったものだったな。
さすが「鬼島津」の異名を持つ……銅像だ。
島津のお家芸、『釣り野伏せ』の戦術だったのか!?
見事に釣り出されたアロサウルスは、劣勢になったようだ……。
さきほどまでの勢いはない。
そこへ、ジョナサンさんとミナさんが目にも留まらぬ剣閃で斬り込む!
「剣の型・『ホーリーシット』!!」
「剣技・サン・フランシスコ!!」
二人はその好機を逃さず、アロサウルスを斬って捨てたのだ!!
「ぐっぎゃぁあーーーぁっはぁーん!!」
アロサウルスが灰になって消滅していった……。
やはり、吸血鬼の断末魔は少し嬉しそうなんだよなぁ……。
「むぅ……!? アロサウルスのやつが!?」
「ぐぎゃぎゃ……! バカなやつめ!」
「ふん! これで俺がディノエルフの皇帝に近づいたな……!」
あいかわらず、こいつらに仲間を思う気持ちはないようだな……。
まだ自分たちの権力に目がくらんでいるようだ。
オレはアイにそっと、指示を出した。
こいつらの周囲を徹底して監視し、一匹たりとて逃さぬように……と。
(マスター! 承知しました。おまかせください……。)
アイもすべてを理解してくれているようで、すかさず、周囲の数千兆個を超える超ナノテクマシンを、さきほどの『K-Pg境界』から、『ディノ・ドラグーン』たちの生き残りの包囲に変更したのだった。
イシカもホノリも、ヒルコも周囲に展開して、包囲からディノエルフ種を逃さないように警戒に当たる。
そして、ちょうどそのころ、コタンコロとアテナさん率いる『ミネルヴァナイツ』のみなさんが天馬(ペガサス)に乗って、近くまでやってきていた。
コタンコロはさっそく、上空に待機し、上空からも逃さないように目を光らせる。
「残念ながら……。もう誰もディノエルフの皇帝になることはない。」
オレはつぶやいた。
ヘルシングさんもオレたちの行動に呼応するかのように、さらなる魔力を高め、その持っている聖なる大剣『ホワイトシルヴァー・パイル(白銀の杭)』をかまえ、いっそう激しくディノエルフたちを屠っていく……。
「行くぞーーっ! 『ヴァンパイア・ハンターズ』よ! オレについて来い!!」
ヘルシングさんが雄叫びを上げ、メンバーたちが応じたのであった-。
「「おう!! 」」
~続く~
©「ドニェープルの嵐」(作詞:タラス・シェフチェンコ/作曲:ウクライナ民謡/訳詞:関 鑑子)
©「アメイジンググレイス」(曲/アメリカ民謡 詞/ジョン・ニュートン)
©「はなさかじじい」(曲:田村虎蔵/詞/:三郎)
©「虫の楽隊」(曲/田村虎蔵 詞/桑田春風)
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