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第217話 空中戦『合流』
ジュラシック・シティ跡地の『チクシュルーブ・クレーター』を、『ケルラウグ川』沿いに淡水の海アプスーへ向かって、メメント森を抜けて下流に沿った先にある古さびた町『ウルタール』の街がある。
各都市との間で盛んに貿易を行っており、『エルフ国』有数の貿易が盛んな都市『ダイラス・リーン』からも隊商がやってくる。
『ダイラス・リーン』は別名、犯罪都市とも呼ばれ、『ケルラウグ川』がアプスー海に注ぐ位置にある大都市だ。
住人のほとんどが盗賊や強盗、殺人者などの犯罪者で、海から吹き付ける強い風が演出しているのか、とても殺伐とした街だという。
だが、普段であれば『エルフ国』の庇護下にある『ウルタール』の街には、さすがの『ダイラス=リーン』の連中も手を出すことはないだろう。
近隣には『トゥオネラ』、『ポポヨラ』、『黄金都市エル・ドラード』があり、その報復を恐れるためだ。
だが、今は……。
「その『トゥオネラ』が落とされ、『メメント森』側は戦火にある……ということね?」
アテナさんが、胸を張ってオレのほうを向いて、声をかけてきた。
たった今、戦況分析を アテナさん、ヘルシングさん、アイと一緒にしていたところだ。
ブゥウウ……ン
すると、そこで目の前の空間が歪みだした。
「むっ!?」
「何者だ……!?」
そう言って一瞬、身構えたオレたちだったが、空間に門が現れ、中から現れた者たちを見て、すぐに構えを解く。
「サルガタナスさん!」
「あらぁ……? ジンさん。お先に来てたのね?」
「ふむ……。おお! 情報屋か……。しかし、転移呪文とは……、やはり、デキるな?」
「ああ! 待っていましたわ。ジンさんのお仲間さんの方ね? ふぅーん……。」
アテナさんが、サルガタナスさんの赤い美しいドレス……の中身のはちきれんばかりのお胸をジロジロと見ている。
「まあ! アテナ様にヘルシングさんもご無事でなによりです。」
「うむ。そなたも、よく務めを果たしてくれたな! 助かったぞ!」
「ああ。貴卿は『チチェン・イッツァ』でも働いてくれていたな? これほどの人物が野に埋もれていたとはな……。」
「いえいえ。とんでもございません。しがない情報屋ですよ。今後は贔屓にしていただけますようお願いしますね。」
「ああ。重宝させてもらうとしよう。」
「ところで……。あそこに見える『ウルタール』の街へ行くのでしょう?」
「そうだね。サルガタナスさんは『ウルタール』について、何か知っているかい?」
「まあねぇ……。私が情報屋ヤプーだってこと、お忘れかしら?」
「そうでしたね……。サルワタリと違って、冒険者っぽいからすっかり忘れていたよ……。」
「それはそうかもしれないですねぇ。そうね……。『ウルタール』は猫の街とも言われているわ。」
「猫の街!?」
「ええ。人とともに人語をしゃべる猫や猫の獣人たちが多いのよ。そして、猫の軍が街を警備しているわ。」
「ああ。聞いたことがあるな。『ウルタールの猫軍』だな。たしか老いた将軍猫が指揮官だそうだな。」
「私も噂は聞いたことがあるわ。先の『精霊龍大戦(セレルマキア)』では、奮戦したとか……。」
猫の街……だって?
それに将軍猫だなんて……。
まあ、オレもイラムの屋敷に、黒猫獣人たちを雇っているから、猫については愛情があるんだよなぁ……。
そういえば、黒猫のカーロや猫又のネコタマコ先生、元気にしてるかな?
(にゃ? ジン様? どうしたのにゃ?)
(え? あれ? ネコタマコ先生!?)
(そうにゃ! あにゃた、にゃかにゃか家に帰って来にゃいのか?)
(そうにゃ! そうにゃ! ジン様! マタタビ酒もっと欲しいにゃ!)
(あれ? カーロか? その声は!?)
(えっと……、アユタウロスさんにマタタビ酒は頼んでおいたんだけどな……。言っておこうか?)
(ああ! いやいや! それには及ばないにゃ! ……ちゃんともらってるけど増やしてほしいだけにゃんだにゃー……。)
(……。……こほん! これって思念通信だから、カーロ……。丸聞こえだよ? 心の声が……。)
(にゃにゃにゃ……! にゃにー!? いや、忘れるにゃ! ちゃんともらってるにゃ!)
(マスター! 猫の民がいると言うなら、カーロたちに協力してもらったら、『ウルタール』の街の住民とも上手くいくのではありませんか?)
(おお!? アイ! さすがだな!? それはいいアイデアだ!)
(く……くふぅ!! はぁはぁ……。嬉しいお言葉! このボディに嬉しさのエクスタシーが最高潮に感じられましたわ!)
(お……おぉ……。なんだか、エロいんだよなぁ……。いちいち反応が……。まあいい。おい! カーロ! 誰かこっちに来て手伝ってもらえないか?)
(あちしかにゃー!? でも、ジンさんに頼まれた宅配のお仕事があるにゃー。ネコタマコ先生はどうにゃ?)
(にゃーは『タマ小屋』の授業があるにゃー。まあ、教えるのは、カーロでもできるにゃけどにゃ……。)
(カーロ! 宅配の仕事は他の黒猫獣人や、『イラム』のヒトにお願いして、ネコタマコ先生の授業を少し代わりを務めてもらえにゃいか?)
(うーん……。マタタビ酒はどうなるにゃ?)
(今までの倍、飲んでもいいよ!?)
(にゃにゃにゃにゃんだふる!! あちし、やるにゃ! もう待ったは無しにゃ!)
(ちょいちょい! 待ってよね? にゃーはどうなるにゃ!? ジンさんの手伝いと言ったって……。)
(マタタビ酒……、3倍飲んでもいいよ!?)
(行くにゃ! どこでも行くにゃ! 早く教えなさいにゃ!)
ふ……。ちょろいな。
つか、ネコタマコ先生……。オレが『寺子屋』の話をしたので、『たま小屋』って名前にしているのか……?
いつの間に……w
まあ、いいけどさ。
(なんか言ったにゃ?)
(ああ、いや、なんでもないよ? えっ……と『ウルタール』っていう街なんだけど、わかるかな?)
(ああ……。『にゃんどるふ』のいるところかにゃ?)
(にゃんどるふ?)
(老いたケチな老猫で、将軍とかカッコつけてる猫にゃよ?)
(……それって、もしかして……?)
(イエス! マスター! さっき、サルガタナスさんが言っていた老いた将軍猫のようですね?)
(ネコタマコ先生! その……にゃんどるふさんを知ってるのかい?)
(……元カレにゃ!)
「「……ええぇええええーーーーっ!?」」
オレとアイは思わず声を上げてびっくりしてしまった。
元カレ……って、アレですよね?
昔、恋人同士だったってヤツ……ですよね?
なんだか、急に、俗な話になってきたなぁ。
つか、老いた将軍猫さん……。『にゃんどるふ』って名前かよ!?
にゃんだかなぁ……。あ、いや、なんだかなぁ……。
カーロやネコタマコ先生らと話すると、黒猫語がうつっちゃうな……。
(よし! じゃあ、ネコタマコ先生が適任だな。ぜひ、こっちに来てください!)
(わかったにゃー!)
(デモ子……に、また頼むか……。)
(じゃ、そっちへ行くにゃよ?)
(え? どうやって……?)
「レベル6・光魔法、合流呪文! 『帰れソレントへ』!!」
『美しい海 感傷をさそう! 君の優しき囁き 夢の中へいざなう! 軽やかな風は オレンジの香りを運び、その芳しさは 恋心に沁みる! 「私は行くわ、さようなら」君は言った! 僕の恋心を見捨て、僕の気持ちを置き去りにして、行かないでくれ! これ以上僕を苦しめないでくれ! ソレントへ帰って来てくれ!』
ネコタマコ先生が、呪文を唱えた。
バヒュゥウウウーーーー……ゥゥウウゥ……ンン……
なんと! ネコタマコ先生が、空から飛んできた!
光のスピードでこちらに飛んできた……ようだ。
「おまたせにゃ!」
「ネコタマコ先生!」
すごいな。さすが、猫又!
ただの飲んだくれの猫じゃあなかったわ……。
~続く~
©「帰れソレントへ」(曲:クルティス、訳者不明:意訳)
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