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X子の家はお金持ちだった。
利発な上に運動も得意で、それでいて自分を誇示しない彼女は、どちらかといえば同性にモテる娘だった。
けれど、彼女を「ブス」と罵っていた男子も、内心では関心を引こうと躍起だったに違いない。
そんなX子が、なぜ私などに目をかけてくれたのかはわからない。
忘れ物をした時、遠足のバスで酔った時、クラスのお楽しみ会の班づくり。彼女は事あるごとに、私に手を差し伸べてくれた。
X子の“寵愛”を一身に受ける私を疎む女子は少なくなかった。はっきりそれとわかるいじめこそ受けなかったものの、当て擦りを言われたことは一度や二度ではない。
私が取り巻きのそしりに辟易していたのを、彼女は見抜いていたのだろう。
秘密のお茶会と称して家に招かれた時、X子が最後に付け加えた言葉は今でも覚えている。
あなただけ。特別よ。
その一言が、世間知らずで自分嫌いの十一歳の小娘をどれだけ舞い上がらせたことか!
ただ一つ、懸念すべきことがあった──果たして母は了解してくれるだろうか?
その当時、隣の学区でおこった少女の行方不明事件──先に述べた、あの泣きぼくろの少女だ──が世間を賑わせており、同い年の娘を持つ母は神経過敏になっていたのだ。
物騒だから、出かけちゃいけません。
あの堅物な母にそう言われてしまえば、それまでだ。私は生涯に一回あるかないかの、お城の舞踏会にも匹敵する機会を永久に逃してしまう。
悩んだ末に、母には何も相談せず、学校から直接X子宅へ向かうことにした。
それは、私が生まれて初めて犯した規則違反だった。信号すら生真面目に遵守してきた娘には、とても甘美なスリルに思えた。
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