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吹き抜けの玄関、回廊状の二階。そして広々とした玄関。
下腹部の痛みも忘れて、私はしばし立ちすくんだ。
「どうしたの?」
「ううん」サンダルや庭作業用のゴム靴で雑然としている我が家の玄関を思い出して、情けなくなった──などと言えるわけもない。
「緊張しなくていいのよ」
X子の家はモダンな明るさに満ちていて、とても開放的だと感じた。
ただ一点、玄関脇に大きな肖像画がかけられていることを除けば。
「あれはね、大した絵じゃないの。描かれた人も、まだ生きてるもの」
私の気後れを、X子は恐れと受け取ったらしい。安心させるように、そう言ってくれた。
それでも私は、居間に通されてからトイレを借りるまで、終始うつむいて過ごしていた──にもかかわらず、私はあの日居間で見たものを、今でも鮮明に記憶している。
その瀟洒な居間には、数多の写真が飾られていた。どの写真も、人物を正面からとらえたポートレートだった。
曰く言い難い、ざらっとした違和感を覚えたのを記憶している。
何もおかしいところはないはずだった。親族の生前の写真くらい、我が家の食器棚の上にも置かれている。
だがその家の写真は、あまりに多すぎた。そして被写体の性も年代もバラバラだった。
見られている──はっきりとそう感じた。写真という写真の人物が、私を目で追っている。
その感じは、廊下に出ても、花摘みの最中にも消えなかった。
もっとも、当然といえば当然だった──ポートレートは便器のタンクの上にまで置かれていたのだから。
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