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抑揚のない、蝶番の軋みを思わせる声。
ついで、乾いた木がフローリングを打つ音がした。コツッ、コツッ──誰かが義足をつけて歩いたら、やはりああいう音を立てるのではなかろうか。
近づいてくる音。そしてあの耳障りな、けれどもどこか蠱惑的な、X子のものでありながらよく知るX子のものではない声。
──残念ね、あなたはあそこの人達以上に素敵な、特別なお友達になれるのに。
あそこの人達。
その瞬間、私は察した──何故すぐに気づかなかったのだろう。
居間に飾られた、数多の写真。あれらは全て、あのトイレのポートレートの同類だった。
無意識的に、理解することを拒んでいたのか。あの家の異常性から目を背け、逃避しようとしていたのだろうか。
やめて、私は素敵なんかじゃない。あなたの特別なお友達になんて、なれっこない。
彼女は私のすぐ後ろにいた。けれどその呼気は感じられなかった。
振り返れば、永久に帰れなくなる。そんな確信があった。
──無理強いはしないわ。だけど諦めないわよ。今度はあなたの方が、私を求めることになるの。
無機質な囁き、そして何かの軋み。
それは我が家に帰り着き、母の背にかじりつくまで、耳にこびりついて離れなかった。
私がX子の家で最後に見た物は、あの玄関脇の大きな肖像画だった。
そこに描かれていたのは、やはり人形だった。その虚ろな目は、まっすぐこちらを見下ろしていた。
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