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加菜絵は特に容姿が優れているという訳ではない。よく言っても中の上、どこにでもいる普通の女子高生だ。
だがそんな彼女のもとには、クラスや学年の垣根さえ超えて写真の加工を頼みに来る女子が毎日のように溢れかえる。
何故ならSNSのフォロワー数が戦闘力ともいえるこの時代、いかに可愛い写真を載せられるかということは彼女たちにとって死活問題。
だから『どんな顔でも美少女にできる』加菜絵が重宝されるのは、ある意味必然なのだ。
一方、その様子を周りの男子たちは鼻白んだ顔で見ていた。
「あんなの会えばすぐバレんだろ」
「化粧だって濃すぎ。元の顔もわかんねぇよ」
「素の顔が一番可愛いよな」
そんな声がぼそぼそと聞こえてくるが、正面切って言い出す勇敢な男はいない。そうすればすぐに猛烈な反撃が来ることを彼らは知っているのだ。
「だけどあのときはマジで笑った」
湊もそんな情けない男の一人だ。加菜絵と同じクラスの友人、本郷連(ほんごうれん)とキャーキャーと騒ぐ女子たちを尻目にこそこそと話し出した。
「俺、初めて会ったとき『え、どちら様ですか?』って聞いちゃったもんな」
湊はそう言って連とぎゃははと笑いあう。二人にとって、その話はもはや鉄板ネタだ。
時をさかのぼること半年前、彼女が欲しくて欲しくてたまらないお年頃の湊に、加菜絵を紹介したのが蓮だった。
加菜絵と会えると聞いたとき、湊はそれはもう喜んだ。
だって、加工盛り盛りの写真を見せられていたのだから。
ハトが豆鉄砲食らったように口をぽかんとしている湊を見て、蓮はケタケタと笑っていたし、加菜絵は慣れっこのように乾いた笑みを浮かべていた。騙されたと気が抜けた湊だったが、加菜絵は話してみるとサバサバとした性格のいい奴だったので、それからは3人で遊びに行くようにもなったのだった。
いまにして思えば我ながらあの態度はなかったなと思いつつ、まぁ気にしてないみたいだからいっか。なんて甘い考えのまま湊は謝らずネタにしている。
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